第6章 それぞれの苦悩1
大広間では、ガチャガチャと金属音が鳴り響く。
信長が、あつ姫の鎖を外している音だ。
その場に居る者達は、あつ姫の足を見ないよう、目を伏せている。
そして、呼び止められた秀吉は、信長の前でジッと待っていた。
「あつ姫、酷く赤くなっておるな」
「そうだね。物の怪用に術がかけてある、普通の鎖じゃないからかな。でも、すぐ治るよ」
「全く、あつ姫を物の怪扱いとは……」
と、信長は言いつつ、目の前の秀吉に、鎖の束を投げつけた。
それは、秀吉の肩に直撃すると、鈍い音を立てて畳に落ちて行った。
痛みを我慢する秀吉。
当然の報いだろうと、皆が思う。
散々、信長の機嫌を損ね、こんな極秘の軍議にまでなっているからだ。
当の秀吉も、それは重々承知している。
ゆえに、自分への仕打ちも致し方ないと唇を噛み締め、ただ信長の機嫌が良くなるのを待っていた。
すると、
「父上、人に鎖を投げちゃダメ。頭に当たったら死んじゃうよ」
「あつ姫、お前を牢に閉じ込めた張本人だぞ。これくらい、良いではないか」
「でも、元はと言えば、父上が馬狩りなんかするからだよ。あんな邪気にも気付かないなんて、織田信長も耄碌したね」
「もっ、もーろくーッ! あつ姫、父はまだ三十二だぞ!」
「ふぅん。でも、髪型もジジ臭いしぃ」
「またその話か。あつ姫は、茶筅髷が嫌いか?」
「うん。嫌い……皆も同じ髪型だけど、ジジ臭い」
眉根を寄せ、ガックリと肩を落とす信長。
最早、目の前の秀吉の事などどうでも良いのだ。
そして、何かを思い付いた信長は、口角を上げた。
「光秀、あつ姫の御付きの者は居るのか?」
「はい。既に部屋の外で控えております」
「左様か。あつ姫を任せるゆえ、中に入れよ」
と、信長が言うが早いか、下段の隅に女が平伏していた。
中段に座する武将達が驚き、一斉に女に視線を向けた。
その女は、女中とは違う着物を纏い、一見、武家の子女に見えた。しかし、打掛けは羽織らず、腰辺りまである茶色い髪を邪魔にならないよう、一つに結んであった。
そして、女が顔を上げた。