第5章 二人の関係3
信長が口を開く。
「貴様らに言うておく事がある。今後、あつ姫の前で下世話な話をするな。側室など以ての外だ。命に背けば、誰であろうと容赦はせん」
「……‼︎ お屋形様、それは、一体どういう事でしょうか?」
いち早く反応したのは、秀吉だった。
彼は、信長の右腕的存在。
ゆえに、皆が聞けない事を口に出したのだ。
だが、信長は、秀吉に若干苛ついた。
「どうもこうもない。貴様らは、ただ従えば良い」
そう言われてしまえば、秀吉でも、もう何も言えない。
「「「「「仰せの通りに」」」」」
皆が拳を床に付け、頭を下げると、信長は満足げな顔をした。
「ククッ、それで良い。貴様らは、あつ姫の正体が知りたいのであろう? まあ今後の事もある。教えてやろう」
「……っ、お屋形様、誠ですか?」
またもや反応する秀吉。
政宗もバッと信長を見た。
秀吉は、信長が『物の怪』に取り憑かれているのでは、と疑っていたのだ。
まあ政宗に関しては『新しい側室が手に入る』と邪な考えなのだが。
無論、人の心を読める信長。
そんな事は百も承知で口角を上げた。
そして、驚きの言葉を言い放った。
「クッ、貴様ら……まあ良い。……あつ姫の正体か……あつ姫は、俺がこの世で一番愛する女子だ」
「「「「「……‼︎ 」」」」」
秀吉らは、驚きで言葉にならない。
信長は、あつ姫の両耳から手を離した。
この時、私は、皆の喜怒哀楽の激しさに首を傾げていた。
しかし、信長に対しての不思議な感覚が、ある確信へと変わっていた。
そして、信長を見上げた。
「三郎、姫の泥で、この部屋も三郎も汚れちゃったね。ごめんなさい」
「気にするでないと言うたであろうが、それよりもだ、『三郎』と呼ぶでない」
拗ねたような信長の言い方に、私は口角を上げた。
「分かったよ。……パパ、じゃなくて……父上」
「「「……‼︎ 父上ぇーーーッ!」」」
秀吉を始めとして、その場に居た者達の、驚きの声が城中に木霊したのだった。