第5章 二人の関係3
秀吉らが席に戻ると、今まで動く事も話す事もしなかった光秀が、政宗に鋭い視線を向けた。
「政宗殿、いくら女好きとはいえ、お屋形様の腕の中にいる娘を側室にしたいとは、ちと無礼ではないか?」
「ほう……光秀殿が物申すとは珍しい。しかしながら、某は、思った事を口にしただけの事。誠に側室にするかは、お屋形様次第と思います」
政宗と光秀は、互いに殺気立ち、いつ刀を抜いてもおかしくないほどだった。
だがそれよりも殺気立っていたのは、家康だった。
しかし彼は、ジッと我慢し、あつ姫に視線を向けていた。
そして、秀吉はというと、あつ姫が飛び降りる前に言い放った『あまり主君の命に逆らうでない』という言葉が頭から離れなかった。
しばらくの間、各々があつ姫の正体を考えていた。
「ん……? あれ?」
私は、誰かの温もりを感じ、目が覚めた。
しかし、すぐに先程の事を思い出した。
(……自害、失敗しちゃったんだ)
純潔を守る為、死を選んだ。
それは、父から強く言われ続けていた事。
しかし、純潔が何なのかは、よく分からない。父は、深くは教えてくれなかった。
「あつ姫、目が覚めたか?」
落ち込みながら考えていると、頭上から声が聞こえた。
と、ここで、誰かの膝の上に座っている事にやっと気付いた。
しかもだ、座っている場所は、先程の正反対。
左右には、秀吉達が居り、正面にも横並びに男達が座っていた。
「あつ姫?」
「……あ、うん。起きた……自害、失敗しちゃった。……ごめんなさい」
「もう二度とするでない。俺がお前を守ってやる」
私の顔を覗き込み、そう告げたのは信長だった。
その顔は、辛そうで、とても心配そうに見えた。
「……三郎……?」
「あつ姫、そろそろ、その呼び方を止めんか。分かっておるだろう?」
「うん……だけど……」
私は、織田信長を知っていた。
そして、彼も私を知っている。
しかし、確証が持てず、しばらく黙り込んだ。
一方、秀吉らは、信長とあつ姫の関係が分からず、首を捻っていた。
何故、娘を膝の上に載せるのか?
あんなに優しい信長を見た事がない。
謎は深まるばかりだ。
すると突然、信長があつ姫の両耳を塞いだ。