第5章 二人の関係3
「……っ‼︎ あつ姫っ!」
信長が私の名前を呼んでいた。
(パパ、姫は純潔を守ったよ)
私は、飛び降りた瞬間、意識を失くした。
「くっ、姫様……やはり、お連れするのではなかった……」
大吾は、城の外で身を潜め、大広間での様子を伺っていた。
そして、飛び降りた瞬間、巧みに縄を操り、落ちて行くあつ姫の身体に縄を巻き付け、助けたのだ。
彼は、奥歯をギリっとさせ、あつ姫を抱き締めながら、信長の元に戻すか考えていた。
すると、窓から信長が顔を出した。
「大吾、あつ姫を渡せ」
「……信長公……姫様は、また同じように自害しようとされます。貴方は、あつ姫様を守る事が出来ますか?」
「大吾、愚問だ」
「俺は、そうは思えません。あんな下世話な連中……姫様にあのような話をするとは……」
「分かっておる。二度と下世話な話はさせん」
大吾の厳しい言葉に、信長は険しい顔をしていた。
自害するとは思いもしなかったのだ。
しかもだ、己が腕を緩めた為、あつ姫が腕からすり抜け、飛び降りてしまった。
強い自責の念に苛まれるが、今更後悔したところでどうしようもない。
だが、そんな信長の思いなど、大吾には関係なかった。
「そうですか……しかし、次に同じような事があれば、例え歴史が変わろうと羽柴秀吉、伊達政宗……いや……誰であろうと殺します」
「それは、俺とて同じだ。次は必ず……秀吉であろうと殺してくれるわ」
そう、信長が腕を緩めたのは、秀吉と政宗を殺そうとしたからだった。
だが、一瞬躊躇った。
それが、あつ姫の自害への手助けになってしまったのだ。
大吾は、しばし考え、あつ姫を信長に委ねた。
「あつ姫様をお願いします」
信長は、返事をせず、あつ姫をその手に抱いた。
愛おしそうにあつ姫の頭を撫でると、信長は、上座に戻った。
そして、あつ姫を己の膝の上に載せると、口を開いた。
「貴様ら、いつまで呆けておる。さっさと座れ」
秀吉らは、信長に『その場から動くな』と命じられ、立ったままだった。
信長は、大吾が外に居る事を知っていた。ゆえに彼を見られないようにする為、皆をその場に止めていたのだった。