第5章 二人の関係3
(なんだ、この格好は!)
信長が後ろから私を抱えていたが、まるで、子供が縫いぐるみを抱っこしているような感じだ。
少しムッとして振り向いたが、信長は、不敵な笑みを浮かべていた。
「政宗は、あつ姫を見て、どう思うのだ?」
信長の問いに対し、政宗は、品定めをするかのように私を上から下まで見ていた。
「ふむ、そうですねぇ……顔や手は泥だらけですが、それは牢屋に居たからですね。青い目は初めて見ましたが、艶やかな漆黒の髪も珍しい。しかし、とても手入れされている。……汚れを落とせば、それなりかと。……まあ、何処の姫君か存じませんが、某の側室に頂きたいですね」
「何……? 貴様の側室だと?」
信長の声色が変わった。
何の話か分からない私は、信長の顔を見るが、お腹に回った腕に力が入っていた。
「三郎、側室って何?」
信長に問い掛けてみたが、顔が険しくなるばかりで何も答えてくれなかった。
すると、政宗がニヤリとした。
「ほう、あつ姫殿は、未通女か。まだ十二、三歳。いや十四歳くらいか。女にするには丁度良い。……あつ姫殿、某の側室になれば褥で色々と教えてあげますよ」
(おぼこ? しとね? 教える? 一体何の話だ? 三郎は、顔が怖くなってるし)
益々話の内容が分からなくなり、困惑した私は、視線を彷徨わせていた。
と、秀吉と目が合った。
彼は、苦々しい顔をして言い放った。
「政宗殿、その様な怪しい娘と寝れば、命にかかわるやもしれぬぞ」
「ハハッ、秀吉殿、寝てみないと分かりますまい」
「ねっ、寝るだとっ! 姫は、純潔を守れと言われておる。そうなる前に自害する」
衝撃的な話を聞き、私は、足をバタつかせ、信長の腕から逃れようともがいた。
がしかし、ガッチリと回された腕はビクともしなかった。
「ふん、自害とはな。純潔ごとき大した事ではないだろう。出来るものなら自害してみろ」
秀吉の言葉で、信長の腕がなぜか緩んだ。
私はその隙に、彼の腕からすり抜け、足をもつれさせながら、障子まで走った。
そして、そのまま窓を背にして、障子の敷居に載った。
「姫の純潔は特別なのだ。ゆえに自害も止むを得ん。……秀吉、貴様は、織田信長の忠臣だが、あまり主君の命に逆らうでないぞ。では、さらばだ」
私は、そう言うと後ろに倒れる様に飛び降りた。