第2章 暗闇
しばらく手を動かしていたが、足の方は、まだ力が入らない。
わずかに動く程度だ。
(ダメか……鎖のせいかな)
鉄の鎖が重く、力の入らない私には、足を自由に動かす事もままならなかった。
小さな溜め息を吐くと、鎖の先を求めるように、視線を動かした。
鎖は、私の背後にある岩壁まで続いており、そこに埋め込まれていた。
溜め息しか出ない。
足を動かすのを止めると、目を閉じ何故この状態になったのかと、記憶を手繰り寄せた。
数日前。
父と大喧嘩をした私は、家を飛び出し、広い庭の片隅にある、巨大な岩の前に立っていた。
普段は仲が良い。
だが、一年に一度、大喧嘩になる。
私の誕生日、前日だ。
あの日も……
「何で、いつも喧嘩になるのかな。……昔の話を聞きたいだけなのに……」
巨石に額を付け、一人呟いていると、目頭が熱くなり、みるみると涙が溜まってきた。
私はほとんど泣いた事がない。
ゆえに、その時も、それが涙だとは気付かなかった。
そして、涙が頬を伝うと、
私は巨石に、ゆっくりと飲まれていった。
「……ダメだっ! 行くなっ……!」
遠くで、父の叫び声がした。
「ごめんなさい……父……」
最後まで言い終わらないうちに、私は、全てを飲み込まれた。
キュッと目を瞑り続けた私は、静寂の中にいた。
どれくらい時間が経っただろう。
何かが足に触れた。
ゆっくりと目を開けると、
目の前は、死屍累々といった惨状。
うち捨てられた馬達があちこちに横転している。まだ息があるのか、馬達は起き上がろうと首を上げ、足をバタつかせていた。
その中で、一人の男が倒れる馬に何かを突き刺すと、激しく血が迸った。
刹那、
血飛沫を浴びた男が膝をついた。
私は、ゆっくりと男に近付いて行った。
「大丈夫……? その馬の血、早く洗わないと身体に悪いよ」
少し屈んでそう言うと、男がマントを翻した。
(よく見えなかったけど、この人甲冑姿だ。けど、面頬で顔は分かんないな)
観察していると、男と目が合った。
「……っ‼︎ 色が……」
目を見て驚いた私は、半歩後ろに下がった。