第2章 暗闇
ぼんやりと床を眺めていると、幾重にも折り重なった、自分の長い髪が目に入った。
(髪も泥塗れか。刃物が有れば切るところだが。仕方がない)
おもむろに、右手で首に巻かれたチョーカーを引き千切った。
時間が経ったおかげか、指は上手く動かすことが出来ないが、何とか両手は動くようになっていた。
チョーカーで髪を一つに結ぶと、盛大な溜め息を吐いた。
(髪を結ぶくらいで、どれだけ時間がかかるんだ)
このまま、ここで朽ち果てるかも、と思ったが、体を動かしたせいで再び瞼が重くなり、私は眠りについた。
少し後。
一人の男が、娘を見下ろして立っていた。
「なぜ、こんな事に……俺は、ここから助けてやれない。自分を思い出せ……」
捻り出すように呟いた男は、腰から刀を鞘ごと抜くと、柄で娘の顎を上げた。
娘の小さな口が半開きになると、男は、娘の横に膝をついた。
そして、持って来た重湯を少しずつ、その小さな口に流し込んだ。
その日、男は時間を置き、娘に何度か重湯を食べさせたのだった。
翌日。
ザッザッと、人の歩く気配がして、私は目が覚めた。
しかし、離れているのだろうか、人は見当たらない。
床に置かれた手元に不意に目をやると、何か布のような物が見えた。
片手でその布を掴んで引っ張っると、布の下には、小ぶりの土鍋が置いてあった。
(お粥? 五分粥くらいか。誰かが持って来たのかな)
自分のだろうと思ったが、大して腹も空いておらず、粥は食べなかった。
そして、掴んだ布を目の前に持ってくると、ハッとした。
(昨日より力が入る。何でだ?)
布を持ったまま、腕を上下させたり、手を開いたり握ったりして、感触を確かめた。