第5章 二人の関係3
信長は、掴んでいた手を離し、少し考えているようだった。
だが、その隙を突き、秀吉が信長を守るように私の前に立ちはだかった。
先程よりも、更に怒っているようだ。
「娘、牢に戻してやる。そこで大人しくしていろ」
そう言いながら、秀吉は、私の腕を掴もうしたのだが。
信長がすかさず、鉄扇で秀吉の腕をバシッと叩いた。
「秀吉、あつ姫に触るでない。……それにだ、牢に入れるなど以ての外だ」
「……っ、しかしながら、お屋形様、このように薄汚れた娘、牢に入れるか下働きにする他ありません。ましてや物の怪ではないという確証もありません」
と、秀吉が物申した途端、信長が、またもや彼の腕を鉄扇で激しく叩いた。
「貴様、あつ姫を愚弄するのもいい加減にせよ」
「……っ、お屋形様……」
「三郎、叩いちゃダメよ。物の怪って言われても平気だよ。姫、牢屋に入るから。……秀吉、連れて行ってくれるか?」
私は、信長に笑いかけたつもりだったが、ボロボロと涙を流していた。
(また涙だ。おかしいな)
そんな事を思いながら、無造作に涙を拭い、歩き出そうとした。
しかし、思うように歩く事が出来ず、よろめいてしまった。
「うわぁっ!」
転んでしまうと思い、衝撃に備えた。
が、誰かが私を受け止めた。
「あつ姫、大丈夫か? 三日もろくに食べてないんだ。体力が落ちてる」
「うん……ありがとう」
「あつ姫……早く……い……せ」
「……? 家康……?」
受け止めてくれたのは家康だった。
彼は何かを囁いたが、私は聞き取れなかった。
そして、家康に違和感を感じ、顔をジッと見つめた。
と、いきなり足が浮いた。
振り向くと信長が眉間に皺を寄せていた。
私の脇下に手を差し込み、家康から引き離したのだ。
その時、信長に不思議な感覚を覚えたのだが、男が近寄って来るのが見え、身を固くした。
「信長様、その娘の素性をご存知のようにお見受けしますが、あつ姫殿は、何処かの国の姫君ですか?」
「ククッ、政宗、あつ姫の事が知りたいのか?」
(ふぅん、片目を失くしてるんだ。政宗……あーー、伊達政宗か)
と、観察していると、またしても身体が一瞬宙に浮いた。
気付くと、腕が私のお腹辺りに回っていた。
信長が、私を後ろから抱えていたのだ。