第5章 二人の関係3
私は、短刀を真一文字にして、刃先を眺めていた。
(これは、藤四郎。まだ新しい。こんなに綺麗だったんだ。織田信長、最後の短刀か)
新しいはずの短刀に懐かしさを感じ、しばらく、それを見つめていた。
と、前方から声が聞こえた。
「娘よ、その短刀で、何をするつもりなのだ?」
問い掛けてきたのは信長だった。
短刀を渡したは良いが、使い道が気になったのだろう。
私は、信長に視線を向けると、口角を上げた。
「これ? こうするんだよ」
私はそう答えながら、床に届きそうな自分の長い髪を掴み、結んだ所から、ザクッと切り落とした。
「……っ‼︎ やめろっ!」
信長が叫び、大股で私に歩み寄ると、秀吉と家康を割くように押し退けた。
そして、私が持っていた短刀を取り上げた。
「あつ姫! 何を考えておるっ! 髪を切るなど!」
「えーー、だって、泥だらけだったし……」
「『えーー、だって』ではない! 洗えば済む事であろう」
私は、切った髪をもて遊びながら、信長の小言を聞き流していたのだが、ふと気になった事があった。
「三郎、畳も泥だらけになっちゃった。姫、掃除するよ」
「あつ姫、掃除など他の者がする。気にするでない」
「でも、姫が汚しちゃったし……あっ、そうだ! 姫、ここで下働きでもする。部屋は、あの格子の部屋を貸して欲しい。少し暗いけど、畳を敷いてくれたら大丈夫かな」
元の時代には、そう簡単に帰れない事を知っていた私は、信長を見上げ、とりあえずのお願いをしてみたのだが。
その信長は、大きな溜め息を吐き、私の両肩をガシッと掴んだ。
「あつ姫、下働きをする必要はない。それに、お前が言う格子の部屋とは、部屋ではない」
「……? 部屋じゃない……? じゃあ、空いてる部屋が無かったら、下働きの人と同じ部屋になるのか……姫、掃除、洗濯、料理何でも出来るから、一人部屋が良いなぁ。三郎、ダメかな?」
「あつ姫、下働きはせんでも良いと言うたであろう。それから、教えておくが、あつ姫がおった場所は、この城の牢屋だ。しかも、牢屋の中でも、上中下とあるが、あそこは、下の牢屋。一番酷い所だ」
「牢屋……姫が悪い子だから、牢屋に入れられたのか……三郎……姫、牢屋に戻るよ」
自分が悪い事をしたと思い、涙が溢れて来たが、仕方がないと諦め、俯いた。