第4章 二人の関係2
大広間では、信長が目を瞑ったまま、沈黙していた。
何も言わない彼に、秀吉らも口を噤むしかなく、同じ様に目を瞑った。また、家臣達至っては目を伏せ、異様な雰囲気に、ただ耐える他なかった。
その信長は、家康を訝しんでいたのだが。
今日目覚めてから、家康を寝所に呼びつけるまで、彼にあつ姫の話はしていない。
しかしだ、家康は、あつ姫を見て動揺した。更には、名前まで知っていたのだ。小姓は、あつ姫の姿をはっきり見ていない為、小姓が話したとは思えない。
何より、あつ姫の素性を知っているような言動の数々。
時折、家康の隙を突いて心を読むが、途切れ途切れの内容。しかも途中で、家康が心を遮断してしまう為、上手くいかない。
どうにも歯痒く、苛々し始めた信長。
と、そこへ、忍びが彼に耳打ちした。
「……何……? 誠か……?」
「はい。あつ姫様に負担がかからないようにですが。しかし、大吾殿は、城の抜け道を使っておりますので、じきに着きます」
「左様か。ならば、大吾が城の者達に見られんよう、貴様らで対処せよ」
「大吾殿だけ、ですか……?」
「そうだ。あつ姫の事は、どうせ、奴が隠すはずだ。時が無いぞ。行け」
コクリと頷いた忍びは、来た時と同じで、皆に気付かれないうちに姿を消した。
そして、忍びの気配が消えると、信長は目を開け、言葉を発した。
「もうすぐここに、あつ姫が参る。貴様らは、何を見ても決して動くな。話す事も許さん。命に背いた者は、誰であろうと即刻、首を刎ねる。良いな……?」
「「「「「仰せのままに」」」」」
皆が床に拳を突き、一斉に頭を下げた。
信長の横暴とも取れる命令だが、異を唱える者は居なかった。
一方、大吾は、大広間に向かっていたのだが……
本丸御殿に着くと、抜け道ではなく、畳敷きの廊下を悠々と歩いていた。
警備が厳重な場所だが、今日は誰一人居ない。感じるのは、忍びの気配だけだ。
姿を見られないよう、信長の配慮だと気付いた大吾だが、彼はあつ姫さえ守れれば、後はどうでも良かった。
しかし、大広間に近付くと、大吾の歩みが止まってしまった。
足が床に張り付いたように動けないのだ。
それは、大吾の心を表しているようにも思えた。