第4章 二人の関係2
大広間では、軍議が始まっていた。
面子は変わったが、進行するのは今まで通り秀吉の役目だった。
とりあえずは、信長が休んでいた三日間の政務報告を滞りなく終えた。
その間、信長は、何も言わず報告を聞いていた。
だが、特に重要な議題でもないのに、側近が集められた事を、老臣二人が不思議に思い始めていた。
そう、この中で理由を知っているのは、信長以外で、光秀と家康だけだ。
と、老臣の林秀貞が我慢出来ず、疑問をぶつけた。
「お屋形様、極秘の軍議とお聞き致しましたが、これは、ただの定例の軍議ではないでしょうか?」
「全く……俺が休んでおった間の事を、聞くのは当たり前だ。重要な話はこれからだ」
「謀反の兆しでも有りましたか?」
間髪入れずに、佐久間信盛が口を挟んだ。
老臣二人は、当然だが、他の武将達より格上。従って、話の主導権を握ろうとしていた。
だが、信長が盛大な溜め息を吐いた。
「話が進まん。……先程、ここから追い出した者達が居たが、あれは理由があっての事だ。それに、まだ出て行くべき者達がおる」
信長の言葉を受け、林秀貞と佐久間信盛は、二人して視線を彷徨わせた。
いや、老臣二人だけではない。
そこに集う武将達やその家臣も、周りを見回していたのだ。
誰もが思っていた『追い出されるのは自分以外』だと。
皆の様子に、信長が言葉を発した。
「今までこの面子を残したのは、追い出した連中の、今後の役割と柴田らの処分を聞かせる為。また、定例の軍議の報告の為だ。……これより先は、林秀貞と佐久間信盛の両名は、退出せよ」
「……は? お屋形様、それは、どういう意味でございますか? 我々は、昔の役職で言う家老。重臣の中でも最も位が高いはず。ゆえに重要な議題ならば、我々が必要かと思われます」
林秀貞が、信長に異論を唱えた。
当然の反応だろう。
しかし、それが信長の機嫌を損ねた。
眉間に皺を寄せ、目を瞑った信長。
大広間は、静まり返った。
そして、目を開けた信長は、鋭い視線で老臣二人を睨みつけた。
「齢六十の、戦にも出ん重臣など、今の織田軍には必要ない。貴様らを隠居させんのは、まだ、その時ではないからだ。早う出て行け」
「……っ、仰せのままに……」
信長の、左右色違いの瞳に睨まれ、二人は、それ以上何も言う事が出来ず、大人しく大広間を後にしたのだった。