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夢幻の如く

第4章 二人の関係2


政宗は、当然のように襖側左翼の最前列に座った。序列で言えば、家康が座る席だが、信長の許可がなければ座れない。それを政宗は、早い者勝ちと言わんばかりに座ったのだ。
小さく舌打ちをした家康は、仕方なく、政宗の隣に座った。
そして、老臣の二人も家康の隣に移動した。
障子側右翼、羽柴秀吉、明智光秀、石田三成。
襖側左翼には、伊達政宗、徳川家康、老臣の林秀貞と佐久間信盛。
これが現在の、信長の側近中の側近達である。
こうして面子が揃い、波乱の軍議が始まろうとしていた。


ちょうどその頃、
天主では、大吾が眠るあつ姫に語りかけていた。

「姫様、目覚めて下さい。俺の事を忘れていても良い。……俺は、あつ姫様が居なければ、意味がない。……早く目覚めて下さい。……俺の愛する人……」

大吾は、顔を覆っていた布を外し、あつ姫の顔を覗き込むような体勢をしていた。鼻先が触れるほど、顔を近付けていたのだ。
そして、あつ姫の小さな唇に口付けをすると、大吾は、一筋の涙を流した。

「あつ姫様、最初で最後の……俺からの口付けです。……これは、俺の気持ちを封じ込める為です。お許し下さい」

大吾は、もう堪え切れず、声を殺して泣き続けた。
愛するがゆえの悲しい選択。
あつ姫は、決して愛してはいけない存在。この気持ちは、誰にも悟られてはならないのだと、己に言い聞かせた。
しばらく、涙が止まらなかった大吾だが、あつ姫の手がピクリとした為、また顔を覗き込んだ。

「……大吾……泣いてるのか? 誰かに虐められたのか? 姫が叱ってやる」

重そうに目を開けたあつ姫は、手を伸ばし、大吾の涙を拭った。
だが、彼は、あつ姫が自分を覚えていた事、また、苦しいはずなのに、人の心配をした事で、更に号泣してしまったのだ。

「大吾、大の男が泣くな。……姫は、すぐに回復する。……喉が渇いたな」

無造作に涙を拭った大吾は、もう泣かないと決めた。自分が泣けば、あつ姫が悲しむからだ。
目を赤くしたまま、あつ姫に笑いかけた。

「姫様、俺はもう泣きません。……粥を用意させます」

「そうか……」

あつ姫は、それだけ言うと、再び目を閉じたのだった。
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