第4章 二人の関係2
「有り難き幸せにござりまする」
改名が余程嬉しいのか、顔を上げた秀吉は目を潤ませていた。
他の武将達は、それが面白くないのか、不機嫌そうな顔をしていた。
だが、信長は、その不機嫌を吹き飛ばすような言葉を言い放った。
「軍議を始める前にだ。……丹羽長秀、佐々成政の両名は、今すぐ支城に赴き国境の警備に当たれ。鼠一匹通すな。滝川一益は、北条との戦に備え、調略に力を入れよ。前回のような大敗は許さん」
「「「ははぁっ!」」」
三名は、顔面蒼白になり、深く頭を下げると、命に従うべく足早に大広間を後にした。
名を呼ばれていない者達は、安堵していたのだが、それも束の間だった。
「さて、次だ。……柴田勝家、前田利家。貴様らには、領地にて蟄居を命ずる。俺の許可なく領地を出る事は罷りならん。書状のやり取りも禁ずる。両名は大人しくしておれ」
これには、柴田が顔を真っ赤にして憤慨した。武将達の中でも、最も意見を述べるが、文句の方が多い柴田。信長よりもかなり歳上という事もあり、態度も大きかった。
「ハハハッ、お屋形様、ご冗談が過ぎます。この柴田が、何ゆえ蟄居せねばならんのですか? わしが居ない織田軍など……」
柴田が話していると、信長が、ビシッと鉄扇で彼を指し、言葉を遮った。
「それよ……柴田、貴様の悪いところだ。織田軍は、貴様の軍ではない。俺の軍だ。よう考えてから話をせよ。……それから、貴様と前田への苦情が相次いでおる。貴様らの行動が目に余るとな。俺に仕える気がないなら、謀反でも考えればよい。もう話す事はない。ここから出て行け」
「くっ、仰せのままに……」
柴田は、それ以上何も言えず、前田利家を伴い、大広間を出て行った。
いつもなら反発する柴田だったが、左右色違いの信長の瞳に屈したのだ。
簡単に黙らせてしまうほど、信長の力は強かった。
場が落ち着いたが、襖側左翼全員が居なくなった。
すると、家康が、ここぞとばかりに口を開こうとしたのだが、武将達が出入りする襖が、スッと開き、男が一人入って来た。
「信長様、先程、奥州より到着致しました。軍議に遅れ、大変申し訳ござりませぬ」
「政宗、よう帰ったな。座れ」
「ははぁっ」
男は、領地に帰っていた伊達政宗だった。