第4章 二人の関係2
動きを止められた光秀は、家康を睨み、掴まれた腕を振り解こうとした。
しかし、家康の方が光秀より体格が良く、簡単には自由にならなかった。
「光秀殿、寝所へは行けません。信長様もすぐに下りて来られる。今行かれても、信長様の忍びが部屋の中に入れてくれません。ここは、ひとまず軍議に向かって下さい」
「……そうか……だが、何ゆえ貴殿が……?」
「信長様が所望された物があり、届けたところです。それで、軍議の事を聞かされました。貴殿以外は、秀吉殿が招集しています」
「分かった。寝所には行かない。……徳川殿、腕を離してくれるか?」
「光秀殿、残念ながら、貴殿は信用出来ない。某も不本意ですが、このまま軍議に向かいます」
「ククッ、信用出来ないか……それは、某とて同じ。徳川殿は、お屋形様の家臣とは距離を置いているゆえ、腹の内が分からん。……忍びが護衛に就いているなら、時を改める」
家康は、光秀の腕を離した。
寝所に行っても、中には絶対に入れない。
それに、信長もすぐに下りて来る。
途中で会えば、光秀は叱責される。
それを本人も理解したと思った。
が、甘かった。
腕が離された途端、光秀は素早く階段を駆け上がった。
「……っ! あの野郎!」
家康は、つい汚い言葉を口走ったが、すぐに後を追いかけた。
信長の居室は、天主の五階。光秀とすれ違ったのは、二階の途中。普通の建物と違い、天井が高い為、階段の段数も多い。
一気に駆け上がるのは、いくら武将とはいえ、かなり辛い。
それに、よく考えたら、信長は専用の通路を使う為、すれ違う事はないのだ。
マズイと思いつつ、必死で光秀を追いかけた。
家康の方が六歳も若いが、光秀は歳を感じさせない動きで、階段を駆け上がっていた。
家康が、光秀に追いつき、彼の腕を掴んだのは、五階への階段を上ったところだった。
「ハアァァ、光秀さん、あんた何考えてるんだ! 今はあつ姫には会えない。大人しく、軍議に行け」
「家康、離せっ、俺はあつ姫様に会わねばならん」
「くそっ、なんて力だ! 光秀さんっ! ダメだと言っただろう。ガキじゃないんだ。言う事を聞けっ!」
「全く、騒がしい奴らだな。娘が寝ておる。静かにせよ。光秀、今はあつ姫に会う事は出来んと、家康に聞いたであろうに……」
呆れた様子で、二人を止めたのは信長だった。