第4章 二人の関係2
大吾の手は震え、かなり動揺していた。
「ま、まさか、姫様は、その左右色違いの瞳をご覧になったのですか?」
「……そうだ。俺は、一人で馬狩りをしておったから、周りを注意する為に、瞳の色を変えて力を使った。それをあつ姫に見られたのだ」
「馬狩り……魔獣の血を引く馬を探していたんですか……? そんな事の為に瞳の色を変えるとは……」
「貴様には分からんであろうな。勝ち戦であったが、騎馬隊の動きが怪しく、俺の忍びに探らせておったが、あやつらでは限界がある。ゆえに俺が、直接出張ったのだ。案の定、魔獣の血を引く馬であったが、邪気に侵されておった」
話しながら、その時の事を思い出し、信長は溜め息を吐いた。
あの時、微かな邪気に気付かず、死にかけた馬を楽にする為、大太刀を突き刺した。
己が、返り血を浴びさえしなければ、あつ姫が高熱を出し、衰弱する事もなかったと、信長は自分を責めていた。
しかし、過ぎた事を悔やんでも仕方がないと、その事を頭の隅に追いやった。
「今後は、両の目を赤にする。元々、赤い瞳の時間が長い。左右色違いでは、力が強過ぎるからな」
「そうですか……しかし、赤い瞳も長く続けば、真紅に変わります。……まあ、両目が濃藍色よりマシですがね」
「両目が濃藍色か……そうなるかは、俺には分からんが……話はそれだけなら、俺は行くぞ」
「はい。俺は、姫様を守ります。信長様は、あつ姫様が、こうなった原因を突き止めて下さい」
信長は、口角を上げただけで、返事をせずに軍議に向かうべく、寝所を後にした。
その少し前。
家康は、信長の居室前に控えていた秀吉に、軍議の事を伝え、皆の招集を頼んだ。
自分は、光秀を天主に近付けないよう命じられていた為、秀吉に丸投げしたのだ。
側近中の側近と言えば、少人数。秀吉一人で事足りる。ましてや、招集するには、信長の家臣と話さなくてはならない。家康は、それさえも面倒だった。
当然、光秀一人を相手する方が、楽に思えていたのだ。
そして、天主の階段を下りていると、光秀が下に見えた。
「光秀殿、どこへ行かれる? これから軍議です。秀吉殿が皆を招集しています。貴方も大広間に向かって下さい」
「徳川殿か……某は、先にお屋形様の寝所に用があるゆえ、失礼する」
通り過ぎようする光秀の腕を、家康が掴んだ。