第4章 二人の関係2
家康は、皆を招集する為、信長の寝所を後にした。
残された信長は、薬を飲ませる為に抱き起こしていたあつ姫を布団に寝かせた。
そう彼は、ずっとあつ姫を抱きかかえていたのだった。
名残惜しそうにあつ姫の頭をひと撫ですると、信長は目を瞑った。
「大吾、姿を表せ」
「信長様、俺はここに……」
呼ばれるのが分かっていたのか、大吾はすでに、あつ姫の傍で片膝をついていた。
しばらく目を瞑ったまま、無言の信長だったが、突然、口を開いた。
「大吾、天主は今、俺の忍びが護衛に就いておるが、この部屋にあつ姫を一人残しては置けん。あつ姫が目覚めるまで、貴様が傍に居れ」
「……いや、しかし……目覚めた時、俺が居ては混乱するのでは?」
「仕方なかろう……? あつ姫の護衛が居らん。護衛が来るまでだ」
「姫様の護衛……」
あまり納得していない大吾を気にする事なく、信長は立ち上がった。
そして、目を開けると大吾を見据えた。
「俺は、軍議に向かう。あつ姫を守り抜け」
そう命じる信長の瞳は、右目が濃藍色で、左目が燃えるような赤に変わっていた。
力強く、相手を屈服させる瞳。
大吾は珍しく、喉をゴクリとさせた。
「……っ、承知」
目を伏せ短く返事をする大吾。
決して頭は下げない。相手が信長であろうとも。
「ククッ、貴様は相変わらずだな。頭を下げる相手は、ただ一人か……」
「まあ、そうですね。……これでも、貴方には敬意を払っています」
「分かっておる。では頼むぞ」
「信長様、お待ち下さい。一つだけ、お聞きしたい事が……」
階段を下りようとした信長を、大吾は引き止めた。
立ち止まった信長は、盛大な溜め息を吐いた。
「貴様の聞きたい事とは何だ?」
「……はい……信長様の瞳の色です。左右色違いになるのは、戦の時だけだったはず。なのに、今日は目覚めてから何度も色が変化しています。ご自分で理解していますか?」
「ふん……その事か……俺が色を変えておる。以前は、瞳の色を変化させるのは、日に一度が限界だったが、今は自由に使える。あつ姫に見せなければ、問題ない」
信長の言葉に、大吾は驚き、思わず立ち上がった。