第3章 二人の関係
帰蝶は、まだ勝算があると思い、彼の腕に絡みつき、露わになっている己の胸を押し付けた。
そして、上目遣いで光秀を見つめた。
「わたくしには光秀だけよ。貴方以外の男では、わたくしの疼きは止まらないの。もう終わった事だし、貴方も正室は娶っていない。全て良い方向に向かっていたわ。貴方が愛するのは、わたくしだけということね。あらでも、貴方を惑わすあつ姫という女は排除しないとダメね」
頬を緩ませて話す帰蝶は、恐ろしく醜い顔をしていた。
やっと光秀が手に入る。後は邪魔者を消すだけだと、策略を張り巡らせていた。
だから、帰蝶は、光秀の異変に気付かなかったのだ。
絡みついていた彼の腕が、小刻みに震えたと感じた瞬間、激しく振り払われた帰蝶。
そして、離れたと同時に光秀の拳が、流れるように帰蝶の頬にめり込んだ。
「くそ女っ! あつ姫様の名を口にするなと言っただろうっ! 殺してやる」
言いながら、倒れ込む帰蝶の腹を蹴ると、柄に手をかけた。
片や訳が分からず、腹を押さえて身を起こそうとする帰蝶。
光秀は、ガチャリと鯉口を切った。
「み、光秀、なぜ……?」
「帰蝶、お前が人の話を聞かず、己の都合良く解釈するからだ。……死ね」
光秀は、帰蝶の首を刎ねようと、抜刀した太刀を振り抜こうとした。
刹那、突然目の前に現れた人物を見て、光秀の太刀が帰蝶の寸前で止まった。
「……光秀、貴様は何をしている……? この女子を殺す気か……?止めておけ」
太刀を止めたのは、白金の長い髪の少女だった。
帰蝶は顔を上げるが、後姿しか見えず、そこに立っているのが少女としか分からなかった。