第3章 二人の関係
光秀は、顔をしかめ、汚い物でも見るような目で帰蝶を見ていた。
彼の思い通りに帰蝶が話をしたが、彼女の身勝手さに嫌悪感が更に増していた。
だが、気持ちを隠し無表情で話を続けた。
「帰蝶、何か勘違いしているようだが、お屋形様は、お前の本質を見抜いていたと言っただろう。お屋形様が毛嫌いするのは当たり前だ。お前は性悪だからだな」
「……っ、光秀……」
愛する男に酷く言われた帰蝶は、返す言葉が見つからなかった。
しかし、光秀は続ける。
「お前は許婚になっていたが、実のところお屋形様は、すでに岐阜を手に入れた後で、お前には利用価値がなかった。しかし、お前の父親に義理が有り、一年後に離縁するという約束で、名ばかりの正室にしたんだ」
「な……っ、父上が……離縁を約束……?」
帰蝶の知らなかった事実。
始めから決まっていた、名ばかりの正室の座。
父親が、地位を守る為だと思い込み、反発して信長に会う事さえ拒否をした。
それが、すでに国は奪われ、信長の情けで生かされていた父親。
だが、己が光秀を欲したばかりに、父親を追い詰め、死に追いやった。
苦痛に歪む帰蝶の顔は、三十二歳とは思えないほど老いてみえた。
しかし、光秀は、更に追い討ちをかけた。……つもりだった。
「お前の放った間者達は、お屋形様に寝返り、嘘の情報を流していた。お前は幽閉され、外の世界を知らず、間者の情報を信じた」
「……っ、嘘の……情報……? では、貴方は、正室を娶っていない……? あの正室は偽物⁈」
帰蝶は、一瞬で涙が止まり、みるみると頬が緩み、歓喜への顔へと変わっていった。
彼女にとって、父親の死、幽閉された事、一国の姫でなくなった事、それら全てが、光秀の言葉で払拭されたのだった。
だが、帰蝶の反応に、光秀は大きな溜め息を吐くと、座り込む彼女の前襟を掴み乱暴に引き裂いた。
露わになる帰蝶の乳房に、彼は吐き気を覚えた。
「お前は、五つも下の十三だった俺に執着した。……だが幽閉され、淫乱のお前は、男を欲するあまり、実の父親と交わった。……最悪だな。父親が死んでからは、敵国の間者を相手にした。織田軍の情報と交換に。……お前の身体中に付いた赤い跡、吐き気がする」
嫌悪感丸出しの光秀だったが、帰蝶には、それが分からなかった。
いや、知ろうともしなかった。