第3章 二人の関係
光秀は、冷めた目で帰蝶を見ていた。
手加減無しで帰蝶の首を締めた為、彼女はしばらく声が出ず、その場に座り込んでいた。
「くそ女、もう待てないぞ」
「……光秀、貴方はすっかり変わってしまった。もうわたくしの知る方ではないのですね?」
「帰蝶、俺を変えたのはお前だ。そろそろ話せ」
苛立つ光秀に、帰蝶は恐怖を覚え始め、最早、彼を見る事が出来なかった。
そして、重い口を開いた。
「……貴方の正室が流行り病になったのは、わたくしが仕向けたのです。人助けだと上手く言いくるめ、病人達の元に行かせました。人の良い貴方の妻は、何も疑わず、病人達の看病をし、病いに罹りました。……そう、わたくしは、貴方が正室を娶った事を知っていました。だから許せなかった。でも、子まで居たとは……」
帰蝶が話していると、光秀は、スパーンッと彼女の頬を平手打ちをした。
無論、手加減無しの光秀。
帰蝶は、勢いよく畳に倒れ込んだ。
「最低の女だな。……お前は長い間、実の父親に幽閉されていた。だが四年前、その父親が亡くなり自由になった。……途端にお前は行動を起こしたということか」
「……っ、父上は、ご自分が隠居するだけでは済まないからと、意味の分からない事を言い、わたくしまで閉じ込めた。……父上が亡くなり、わたくしは自由になった。でも僅かな財産しかなく、頼る者は、貴方だけだった」
俯きながら話す帰蝶は、ボタボタと畳に涙を零していた。
悲しみで泣いているのか、叩かれた頬が痛いだけか、どちらにしろ光秀にはどうでも良かった。
だがしかし、憐れむような眼差しを帰蝶に向けた。
「お前が名ばかりでも、大人しく正室として納まっていれば、離縁された後でも、それなりの生活が出来たものを……」
「そんな事出来るはずないでしょう! 信長様は、最初からわたくしを毛嫌いしていた。このわたくしをです。だから、信長様を拒んだ。そして、わたくしを愚弄した復讐の為に、多くの女子を間者として信長様の元に送り込んだのです」
「やはりか……お前の間者だと、お屋形様が知らなかったとでも……? お前は、許婚になった頃から間者を通じて、織田軍の情報を敵方に売っていた。お前の父親は、お屋形様の怒りを抑える為に、お前を幽閉したんだ」
光秀の誘導で、要らぬ事まで話してしまった帰蝶は、やっとその事に気付き、彼を見上げたのだった。