第3章 二人の関係
光秀と帰蝶が対峙している頃。
信長から預かった書状を届けるべく、小姓は、大手道沿いにある屋敷を訪れていた。
書状を受け取った人物は、読み終わると険しい顔をして小姓を見た。
「ご苦労だった。……書状の内容は承知した。ところで、信長様の邪気は完全に抜けたか? 信長様ほどのお方なら、馬の邪気くらいでは異常をきたす事は無いが、何か異変はなかったか?」
「……っ、は、はい。大事ありません。しかし、以前よりもお屋形様が恐ろしかったです。……離縁されたとはいえ、帰蝶様に対する態度が、それはもうキツくて。私は初めて見ましたが、瞳の色も変化しましたし……」
小姓が震えながら話をしていると、ヒュンと音がしたと同時に、彼の話が途切れた。
そして、ゴトンと鈍い音がして、小姓の首が、胴体から離れ床に落ちて行った。
「おしゃべりなガキだ。……他言無用と命じられていたのに。しかし、小姓が話をしたら、即刻首を刎ねろとは。……最初から殺す気だったんだな。全く……おかげで部屋が汚れた。……さて、信長様の所へ参上するか」
男は、独り言を言いながら、何事も無かったように部屋を出て行った。
後には、残された小姓の死体が虚しく転がっていた。
時を少し遡り……
信長の寝所に入った大吾は、豪華な刺繍が施された羽毛布団に、当然のようにあつ姫を寝かせていた。
「大吾、あつ姫の様子はどうだ?」
大吾が振り向くと、信長が寝所の階段を上りながら問い掛けてきた。
だが、大吾は答えず、信長の顔を見据えた。
そして、大きな溜め息を吐くと、信長から視線を外し、あつ姫の額に冷えた手拭いを載せた。
何も言わない大吾に、信長は軽く舌打ちをして、あつ姫の傍らに腰を下ろした。
対面に座る大吾は、再び信長を見据えると口を開いた。
「信長様、俺の名を知っているという事は、貴方は、信長様ですね?」
「ククッ、大吾、面白い事を言うな。俺は織田信長で間違いないぞ。だが、今は余計な話をするな」
「承知してます」
何やら意味深な話をした二人は、その後会話をする事なくあつ姫に付いていた。