第3章 二人の関係
泣いているのか、肩を震わせている帰蝶だったが、それは光秀を苛立たせるだけだった。
「ハアァァ……帰蝶殿は可笑しな事を申されるな。我々は他人。……従兄弟と言っても血の繋がりもない義理のもの。まして、お屋形様が貴女と会うななどと、何ゆえ申される……? まさか、その様な理由でお屋形様に会いにいらしたのですか?」
大きな溜め息を吐き、呆れた表情で帰蝶を見下ろす光秀。
あまりに冷たい態度に彼女は、眉根を寄せ光秀を見上げた。
「光秀殿……お会いしない間に、何があったのですか? 私達は愛し合っていたではありませんか。だから、わたくしは信長様を受け入れず、名ばかりの正室になったのに……」
「全く……帰蝶殿、私達は身体だけの関係だったはず。しかも、それは十年以上も前の事。貴女が名ばかりの正室になった後、私は妻を娶り、子も生まれました。何ゆえ今更、貴女に会う必要があるのですか?」
光秀の言葉に、帰蝶は顔が青ざめ彼から身体を少し離した。
しかし、光秀は、彼女を引き寄せると顎に手をかけた。
「ククッ、帰蝶、その顔は何だ? 俺とて歳は取る。妻を娶るのは当たり前だ。いつまでもガキではない」
「……っ、み、光秀……貴方の正室と御子は幸せなんですか? 貴方は元々、敵方の家臣。貴方がいくら信長様に重用されたからと言っても、周りからの風当たりも強いはず……正室も苦労なされているでしょう?」
「フッ……帰蝶、相変わらずだな。お前は昔から俺に近付く女子を排除し、俺がお前の元に戻るよう仕向けて来た。ゆえに妻を娶る時、お前に情報が入らぬようにした。それにお屋形様は、お前の本質を見抜いておいでだったゆえ、名ばかりの正室にしたんだ」
清楚で上品な印象を偽装してきた帰蝶。
しかしながら、光秀には、それを見抜かれていた。
いや、光秀だけではなく、一度しか会っていなかった信長にまで、本質を見抜かれていたのだ。
だが、帰蝶には、そんな事はどうでも良かった。
「そうですか。……であれば、お話は早いです。……光秀、正室を離縁し、わたくしの元にお戻りなさい。離縁が嫌であれば、側室にでもすれば良い。わたくしが正室になります。信長様からも離れ、わたくしと共に生きましょう」
帰蝶の身勝手な話に、光秀は最早呆れるを通り越し、笑いが込み上げた。
「ハハッハッハッハッ! 何を言い出すかと思えば。開き直ったか……」