第12章 憂鬱1
何も言わない信長は、考え込んでいるようだった。
それに何故か、私が年齢を答えた時に若干顔を歪ませていた。
(でもあれ?……そう言えば、中学校には入学したんだ。……それからすぐ留学して……)
「記憶がゴチャゴチャになってた。……姫、十歳じゃない。でも……十四歳か十五歳かは……分からない。父上、ごめんなさい」
「あつ姫、謝る必要はない。この時代に来てから、お前は俺に謝ってばかりだな。無理に思い出す事はない……だが、一応年齢だけは教えておくが、それを人に言う必要はない」
「……うん」
信長の口ぶりからすると、私の抜け落ちている記憶を知っているのだろう。
けれど、信長の時折見せる、辛そうな表情から、自分自身でそれを思い出すまで、聞いてはいけない気がした。
その後、
自分の年齢が十七歳だと聞いた。
だが、この時代の信長は三十二歳で、未来の信長より少し若かった。
「まあ、この時代であれば、俺の歳でお前くらいの娘がおっても不思議ではない……だが俺は、お前の本当の年齢を皆には言わない。色々と問題があるからな」
『色々と問題がある』という言葉に引っ掛かったが、信長に従っていれば、何も問題はない。
今までもそうだったからだ。
生まれた時から信長に守られて生きて来た。
それは、私が、普通の人間とは違うからだという事だけは分かっていた。
記憶は抜け落ちているが、少しずつ思い出した事もある。
だが、まだそれを信長に話す気はない。
全てが繋がっていないからだ。
それに、父親としての愛情を惜しみなく注いでくれる信長に、今は甘えていたかった。
「父上の言う通りにするよ」
「そうか。……俺は、軍議に行くゆえ、自室に戻って大人しくしておれ」
「……相分かった」
返事をすると、信長は満足そうな顔をし、私の頭をひと撫ですると部屋を出て行った。
それを見届けた私も、三階にある自室に戻ったのだった。