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夢幻の如く

第12章 憂鬱1


信長が軍議に向かった頃、既に大広間には武将達が集まっていた。
だが、誰一人言葉を発する事なく、視線だけを政宗に向けていた。
無論、突き刺さるような視線に政宗は耐えていた。己の失態だからだ。
昨日に続き、信長を怒らせた。
それをどう挽回するか、ずっと考え込んでいた。
と、上座の襖が開き、信長が入室して来た。
中段の武将、下段の家臣達は、一斉に畳に拳を付け頭を下げた。

「面を上げよ」

皆、信長の顔を見るが、その表情からは何も読み取れない。
だが、意を決して政宗が口を開こうとすると、信長が先に口を開いた。

「既に皆も聞いておろうが、昨夜あつ姫が戻って来た。しばらくは、天主の自室で休ませる。その間、天主は立ち入り禁止とする」

「お屋形様、それは、某もですか?」

秀吉が、間髪入れず問うた。

「そうだ。俺に用があれば、天主の護衛に言えば良い。何、数日の事だ。問題はない。それとだ、
あつ姫を下女として扱った者だが、不問とする。まあ、あつ姫に仕事を押し付け、楽をした者達は、安土から追い出せ。いつも楽をする事ばかり考える者など、この城には必要ない」

「仰せのままに……では、首を刎ねる事はないという事でしょうか?」

秀吉の問いは、皆が聞きたかった事。三成の報告によると、台所の女中や下女達は、既に首を刎ねられるかもしれないという噂が飛び交い、皆、逃げ出そうとしていたとの事だった。
だが、それが許されるような城ではない。
皆、暗い雰囲気の中、黙々と朝の仕事をこなしていたという。
けれど、最悪の事態は防げたとホッとしたような秀吉に、信長は苛ついてきた。

「今回、首は刎ねんが、仕事を疎かにする者達が増えておる。秀吉は、各部署を統括する者に、仕事に手を抜く者を厳しく取締まるよう通達せよ」

「ははぁっ! 承知仕りました」

その後、触書きにあったように、安土城内に於いての規律を厳しくする事などが話し合われたが、秀吉が中心となり、軍議を進めていった。
最近は、大きな戦が無く、城内の者達の気が緩んでいるのは確かだった為、秀吉は気合いを入れていた。
まあ、それに気付いた時点で策を講じなかったのは秀吉の失態なのだが、そこは上手く流したのだった。
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