第20章 関東大会
「夢野はよく頑張ってくれたよ」
泣き崩れる萌の肩を抱き誘導してくれる菊丸に、半ば体を預けながらベンチへ戻る。青学のみんながあたたかい拍手で迎えてくれた。
「夢野のお陰で楽しい試合がたくさん出来た。ホントにありがとう」
菊丸に頷き返しながら萌は、涙で言葉にならない分心の中で何度も感謝していた。
大会後、帰りのバスが青学に到着したところで解散となった。
「よおし夢野、ちょっち俺に付き合ってくれるよね?」
帰宅する者、自主練に向かう者と皆バラバラになるなか、菊丸が真っ先に萌にそう声を掛けてきてコンテナへの道のりの方角を指差した。
そうか…負けたから反省会だ。でも反省会をしても、もう菊丸先輩とは…
無言のまま目的地へ向かい、コンテナの上に登ると二人で並んで座り込んだ。もうすっかり慣れた動作とここから見下ろす街の風景。だがそれも最後かと思うと急速に寂しさがつのった。
「反省というよりは、感謝」
しばらく黙って景色を眺めていた菊丸が口をひらいた。
「俺さ、夢野とダブルス組んで色んな事学んだし、経験出来た。試合もいっぱい出来たし。だからさ、」
そこで一旦言葉を区切ると彼はこちらを向いた。
「そんな悲しそうな顔するなよ…」
萌の浮かない顔色を見て菊丸も悲しげな表情になっていた。自分がそうさせていることに心が痛みながらも、沈んだ気持ちはなかなか回復せずに小さな声で理由を説明した。
「…試合…負けちゃって……先輩とのテニス、もう終わっちゃったから…」
励ましてくれる心遣いはありがたいが、大会が終わってしまった事実は変わらない。
もう男子コートに行く必要もない。先輩と一緒に練習することも…ない。
「夢野」
かたくなにそう呟き放心したように俯く萌を見て、こっちを向け、とばかりに萌の腕を取り菊丸が詰め寄ってくる。
「俺、夢野が好きだ」
……えっ…?
腕を取られ驚いて顔を上げた萌は、真剣な表情の菊丸と目が合った。