第20章 関東大会
「いつの間にか惹かれてて、気付いたら止まんなくなって、目が追いかけちゃってて…」
彼は頬を赤らめつつ懸命に言葉を続ける。徐々に萌の腕を掴む手に力が込められるが、本人は気付いていないようだ。
「だからさ、終わっちゃったなんて言うなよ」
真っ直ぐでひたむきな目を向け、訴えかける菊丸。
「大会が終わろうが、俺が卒業しようが、テニスは出来るっしょ?」
言い聞かせるように同意を求め笑顔を向けてくれる。
そうだ。
その明るくて前向きな笑顔に、あたしは惹かれたんだった。
悔しさで、悲しさで、意固地になっていた気持ちがいっぺんに溶けていく。
「……ごめんなさい。あたし、もう先輩とテニス出来ないって勝手に思い込んで…」
出来るんだ。これからも。
終わりじゃなかった。
「出来るよ。夢野が打ちたいって言えばいつだって。だってさ、俺が打ちたいもん。夢野と」
彼の返答に思わず涙腺が緩み、また涙が溢れてくるのを萌はすぐに拭ってみせた。
「先輩…本当に、ありがとうございます」
心から感謝の気持ちを述べる。萌の胸はいつの間にか嬉しさと安堵で満たされていて無意識に笑みが零れた。
菊丸は萌のその自然な笑顔を眩しそうに見つめ、再びそっと告げてくる。
「…好きだよ」
短い一言にどきっとする。
いつも周りに元気を与える天真爛漫な彼のイメージとは違う、慈愛に満ちた穏やかな声だった。
「…突然ごめん。さあ、そろそろ帰るとするかにゃー」
少しして菊丸は雰囲気を変えるかのように話を切り替えた。こちらに背を向けてコンテナを降りようとする。
「待って…」
つい彼の背中にすがりついた。
あたしも伝えることが…大切な気持ちがここにある。心はもうとっくに決まっているのだから。
「あたし…あたしも好きです、菊丸先輩のこと」
「ほ…ほんと?」
菊丸は焦ったようにすぐ振り返った。萌が頷くと驚きの表情と視線がぶつかり、そのまま見つめ合った。