第19章 夏合宿(後半)
「あの、大石先輩に頼もうと思ったんですが…」
同室の大石は見ての通り不在だ。手塚は少し思案した後、同行を申し出てきた。
「…俺で構わないなら、一緒に行こう」
…え、うそ…
驚く萌をよそに彼は立ち上がり出掛ける準備を始める。
「すぐ支度する。玄関で待っていてくれ」
言われた通り合宿所の玄関口で待っていると、程なくポロシャツに着替えた手塚が現れる。
そうして学校の敷地を出て普段からよく利用するコンビニへ向かう。ほとんど会話もないまま、彼について行くように歩いた。
「すみません、急いで済ませてきます」
店に到着し、先に立って入口へ走ると手塚も店内に入って来た。
「俺も買う物がある」
桃城達の食べそうなおにぎりやパンを見つくろい、買い物カゴに入れていく。ひとしきり物色したところで手塚の姿がないことに気付いた。
…あれ?部長どこ?
店内を歩いて探すと、花火コーナーの前で神妙な面持ちでじっと商品を見つめる手塚を発見した。
…部長が真剣に花火を選んでる図って…なんか新鮮。
「夢野」
こちらに気付いた手塚が半ば救いを求めるように尋ねてくる。
「どれが良いだろうか。この後部員皆でやろうと思うんだが」
「みんなでやるなら、色んな種類の入った大きいセットがいいかなと思います」
「それにしよう」
花火セットを選びレジへ向かうと、彼はふと振り向いた。
「欲しい物はこれだけか?」
見ると部費の封筒の他に自分の財布を出している。
「部長、あたしが買います…っ」
「いや、いい。俺も桃城達に差し入れしようと思っていた」
会計を済ませて店を出る。外は緩やかな夜風が吹いてきて肌に心地良い。
「荷物、持ちます」
「気にするな」
自分から言い出したのに先程から手塚にばかり世話をかけている気がして声を掛けると、あっさりと、だが柔らかく返された。
振舞いが大人だな、とこういう時に感心させられる。さりげない優しさが身についているところが格好良いと感じた。
合宿所に戻りその足でトレーニング中の二人のもとへ向かう。手塚は一言おいて筋トレをこなしていた彼らに袋を手渡した。