第2章 反省会
「あ、そうか。女のコだもんな。ほい」
そこへ菊丸が唐突に上から手を差し伸べてきて萌は面食らった。
「え?」
「え、じゃなあ~い!つかまれってば」
差し出された手に掴まると、予想以上の力で引き上げられてバランスを崩す。
「きゃあっ」
すると菊丸はもう一方の腕も掴んで引っ張って助けてくれた。突然急接近して何だか頬が熱くなってしまう。
「おーし、じゃあ始めるぞー。今日のダブルス練習試合の反省!」
先程の試合の反省会が行われる。菊丸は普段の雰囲気からは想像つかないくらい熱心に話をしてくれた。彼のテニスに対する情熱が伝わってきて、また違う一面を見られた気がした。
「…ここってさ、試合に負ける度に大石と必ず来てた場所なんだ」
遠くの暮れかかった空を見上げて菊丸は続ける。
「大石と組まされたのは一年の終わり頃からだったけど…最初は苦労したもんなー、いっつもここであーでもないこーでもないって」
「苦労…やっぱり大変だったんですか?」
「もっちろん!だからもし俺とお前が組むことになったとしたら、焦らずじっくりいこーって」
菊丸はダブルスの選手、ペアを組む確率は他の部員より高いだろう。今日の試合は大きな課題だ。
「やっぱダブルスは二人の息の合わせ方で決まるし…俺今日の練習納得いってないし」
「…あたしもです」
「だろ?二人のいいトコ潰し合っちゃった気がするし、呼吸が合えばいいセンいくと思うんだよねー」
実は今日の試合中、菊丸の動きが余りにも華麗で目を奪われた瞬間が何度もあった。彼の生き生きとした楽しそうなプレーが好きだ。だから、自分のフォローのために無理なプレーをさせたくない、させちゃいけない。
翌日の部活で萌は大石に話し掛けられた。
「どうだった?昨日の反省会は」
「あ、はい。色々話し合いました。ほんと反省点ばかりあって」
「そうか。でも…初めて組んだ日にあそこに連れてくとはね、思わなかったよ」
…え?それってどういう意味?
大石の話を呑み込めないまま萌は練習に加わった。今日もダブルスの練習試合がある。しかし今日のペアは不二であった。