第18章 夏合宿(前半)
「夢野…もしかして、怖いの?」
だがそれは茶化す風でもなく、むしろ心配そうな口調だ。
怖いと思われても納得いくほど辺りは暗かったが、怖さよりも一緒にいたい気持ちのほうが強かった。けれど口には出せず、顔を上げ隣の菊丸を見やる。
「じゃ…手、繋ごうか」
心細そうに見えたのだろう、菊丸は優しくそう言って手を差し出してくれる。
「ほい」
その手をそっと掴むと、彼は照れ臭そうにしながらも笑顔を向けてきた。その柔らかい表情に胸がきゅっと締めつけられる。
ただ手を繋いだだけで、こんなに心がじんわりあたたかくなる。
菊丸先輩は…優しいな。
それからは緊張のせいか会話はほとんどなかったけれど、部屋の前に着くまでずっと、手が離れることはなかった。
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