第18章 夏合宿(前半)
差し入れも済ませたし自室に戻ろうかと思っていたところで、菊丸に呼び止められる。
「夢野、俺らんとこ来ない?一緒にトランプやろーよん」
消灯までは各自自由時間だ。少し息抜きもしたいし、お誘いを受けることにした。
「じゃあ、これ置いてきたら行きます」
「オッケー、待ってるからなっ」
菊丸に返事をして調理場へ食器を片付けに寄った後、ドキドキしながら今度はリョーマと桃城の部屋へ赴く。
…夜までみんなといられるのってすごく新鮮だけど、気恥ずかしいようなヘンな感じだ。
四人で早速トランプをして遊ぶ。七並べや大富豪、ポーカーで白熱した戦いを繰り広げ、しばし時間を忘れる。
何だか修学旅行みたい…楽しいな。
ひとしきり楽しんだ後、明日も早いため就寝することになった。リョーマ達とは別室の菊丸と共に部屋をあとにする。
「じゃね~おっやすみ~」
「おやすみなさい」
建物内は必要最低限の照明しかなく薄暗い。
萌の部屋まで送ると菊丸が申し出てくれたので、その廊下を二人で並んで歩いていった。
「夜とはいっても、全然暑いままだにゃ~」
「そうですね…」
蒸した空気はおさまっていたがそれでもまだ暑い。菊丸はいたって元気な様子だが、時間が遅いことに配慮しているのか声は小さめだ。
「練習はどう?けっこうキツいだろ~?無理しなくていいかんな~」
明るい口調で話し掛けてくれる彼に気遣いを感じる。いつも元気に接してくれてありがたく思う。そんな菊丸と、もっともっと、ずっと一緒にいたいと願う気持ちが湧いてくる。
…せっかく二人きりになれたのに、そんなに早く歩かないで。
もっと一緒にいたい。もっと先輩と話していたいの…
「先輩…」
「…ん?どうかした?」
ぼうっと思案していたらつい甘えた声が出てしまい、萌ははっとして口をつぐむ。すると菊丸にふいに静かな声色で尋ねられた。