第18章 夏合宿(前半)
ノックをしてドアを開けると先客がいた。不二の布団の傍らには瑠羽が座っている。同室の河村と三人で談笑していたようだ。
「先生に頼まれて…夜食持ってきました。不二先輩、食べてください」
萌はいそいそとお茶とお盆を差し出した。不二は布団から起き上がっていて、少し容態は落ち着いたようだった。
「ありがとう。ちょっとお腹すいてきてたんだ」
「良かったね、周。薬もあるし、ご飯どうしようかって言ってたところだったの」
お昼から何も食べていないのだろうから、出来ればちゃんと食べて欲しい。
…せっかく合宿中だし、薬も飲んで早く治るといいな。
「夢野が作ったの?」
「は…はい」
「じゃあ、遠慮なくいただきます」
嬉しそうな笑みを浮かべ、スプーンを口に運ぶ不二。
…先輩が喜んで食べてくれて良かった。
そこへお見舞いに来たのか、桃城と菊丸がひょっこり顔を覗かせた。
「不二先ぱーい、大丈夫っスか?」
「ありゃ、ここは女子の人口密度高いにゃ~。なんでこの部屋ばっかり~」
女子が揃っている状況を見て菊丸が茶々を入れる。彼の本来の雰囲気が戻ったように感じ、萌は内心安堵していた。
「あっ、何か食べてる~。卵粥かぁ、いいッスね~」
その横ですぐに食べ物に着目する桃城。
「周の夕ご飯よ。萌ちゃんが作ってくれたの。ね?」
「そっかぁ、夢野オレのは~?」
「何言ってんだよ、お前はさっき夕飯がつがつ食ってたじゃん」
冗談だと思いたいが彼の場合は分からない。本気ともとれる発言をして、桃城はすぐさま菊丸に怒られている。
一気に場が盛り上がり苦笑気味の瑠羽。それに気付いた萌は、食べ終わった不二のお盆を取り立ち上がった。
「あたし片付けてきます。不二先輩、ゆっくり休んでください」
「そーだよな、あんま騒いじゃ悪いし…桃、部屋戻るぞ」
そんな萌を見て、菊丸も迷惑にならないよう退散することにしたようだ。
「夢野、おいしかったよ。ありがとう」
笑顔でお礼を言ってくれる不二に微笑んで部屋を出た。