第17章 遠慮
部活が終わり着替えて帰り支度をする。事務室から出ると、皆が帰っても部室のベンチに座り一人で俯いている菊丸を発見し萌は驚いた。こんなに深刻そうに気落ちした姿は今までほとんど見たことがない。そっと近付き静かに呼び掛けた。
「菊丸先輩…」
「…な、なに?どしたの?」
急に話し掛けられぎょっとした表情の彼に、なるべく柔らかい喋り方で続ける。
「みんなと話しませんか?どこか寄って行く話も出てましたよ」
今まで菊丸に何度も励まされて元気をもらってきた。今度は自分が元気を与える番だ。
だが菊丸はやはり相当しょげていて気が進まない様子だ。
「やっぱり調子が悪いんじゃ…どこか痛いとか?」
心配になってさらに近付き顔を覗き込むと、焦った彼は観念したように謝罪した。
「…ごめん。俺、何だかヘンなんだ。どうしていいか…分かんなくて」
そうして胸の内をぽつりぽつり打ち明け始めた。
「不二と夢野が話してるの、邪魔しちゃいけないって…ずっと思ってた」
…やっぱり気にしてたんだ。この感じだと、あたしが気付かなかっただけでずっと悩んでいたのかも…
「でも俺、不二とケンカしたい訳じゃないんだ。そうじゃないけど、体がいうこときかなくて…」
顔を上げ真剣な表情で必死に訴える菊丸。そんな事はもちろん解っている。
菊丸も葛藤し思い悩んで苦しんでいたのだ。
でも…どうして?少しは気にかけてもらってるって、思っていいの…?
「…あたし、不二先輩とスポーツクラブに行って練習してました」
「うん」
菊丸の話を受けて、萌は不二との自主練について話し出した。菊丸は返事をして聞いてくれている。
「先輩のご厚意に甘えていたかもしれません。でも…それでも、上手くなりたかった」
あたしが不二先輩と練習に行ってたから、周りにも菊丸先輩にも勘違いされてたんだと思う。
でもあたしは純粋にテニスが上手くなりたくて……言い訳に聞こえてしまうかな。
自分に都合の良いように捉えている気がして、言葉が続かなくなり力なく俯く萌。