第17章 遠慮
関東大会へ向けて、順調に練習をこなしていたある日のこと。
瑠羽の体調が比較的良かったため、久しぶりに不二・瑠羽ペアとのダブルスの対戦が組まれた。萌は普段通りに菊丸と呼吸を合わせて動いていたが、どことなくいつもと違う、遠慮がちな菊丸に気付く。
プレー中いつもならもっとハイタッチしたりコミュニケーションを取ってくれるのだけれど、今日の試合は何故かそういった反応が薄い。
調子が悪いのだろうか。しかしこれまでの練習ではそんな様子はなかった。萌のプレーが悪いのか。機嫌を損ねるほどのミスはしていないはずだが…
色んな原因を考えるが、どれもいまいち当てはまらない気がする。急にどうしたのだろう。
何とか試合には勝てたし、連携プレーでのポイントはかなり決まりはしたものの、結局雰囲気は回復しなかった。
「菊丸先輩、お疲れさまでした」
「お疲れにゃ」
試合後菊丸に呼び掛けてみると、にこっとした表情を見せてはくれるが素っ気ない返事が返ってくる。
「…先輩?具合悪いんですか?」
「ほにゃ!?ち、違うよ」
不自然に驚き、焦った様子の菊丸を心配しているところに、不二が挨拶にやって来た。
「エージ、お疲れさま。夢野、いい感じだったね。関東大会が楽しみだな」
不二が萌に話し掛けると、途端に菊丸はスッとその場を立ち去ってしまう。
…あれ?先輩……
「…やれやれ、僕に気を遣って遠慮するなんて、エージらしくないよね」
離れていった菊丸を見て不二はため息混じりに独りごちた。彼も菊丸の異変にとっくに気付いていたようだった。
「それとも、夢野に話し掛けちゃいけなかったかな?」
「そんな…そんな事ないです!」
申し訳なさそうに苦笑する不二に萌は強く否定した。
「…どうして…菊丸先輩…」
小さく呟き、逃げるように姿を消した彼を戸惑いの目で追う。
もしかして…菊丸先輩はまだ気にしているのかな。あたしと不二先輩のことを…