第16章 ストリートテニス
休日、萌は杏と共にショッピングを楽しんでいた。この日は練習がなかったため、たまには気分転換も兼ねて杏を誘っていたのだった。
色々な店を回った後店先で足を止め、休憩にコーヒーショップにでも行こうかと相談していたところに、見覚えのある姿が視界に入った。
「…あっ」
「…あれ、萌ちゃんと杏ちゃん。こんにちは」
爽やかに挨拶をして微笑む長身の学生の姿。鳳だ。
「鳳くん。偶然だね」
「ホントだね。二人揃ってショッピングかい?」
ショップの袋を下げている萌達を見て彼はにこやかな笑みを浮かべる。
そこへ背後から突然、びっくりする程の大声が響いてきた。
「あーっ、杏ちゃん!!」
向こうからやって来るのは不動峰の神尾と伊武だ。目ざとく杏を発見したらしい。
「杏ちゃん…何やってんだよ、これはどういう状況?」
鳳といるところを見て、既にやや不機嫌そうな声で神尾が事情を聞いてきた。疑いのまなざしを向けられ、杏は苦笑いをしている。
杏に気があると思われる彼に追求されると厄介だが、ありのままを言えば大丈夫だろう。事実、鳳とは出くわしたばかりだ。
「鳳くんは、萌に用があって…ね?」
「うん、デートしようかなって思って」
「ぅえっ!?」
しかし萌の思いとは裏腹に話が急展開し、すっとんきょうな声で驚く。杏と鳳がここにきて妙に息の合った会話を交わした。
それを受けて伊武が納得したように呟く横で、神尾は何か思いついたような表情になる。
「…ふーん、なるほど。そういう事か」
「じゃあ杏ちゃん、お邪魔にならないようにオレ達と一緒に遊ぼうぜ!」
そう言って神尾は杏の腕を取り、連れ去ってしまう。神尾達に気付かれないように振り向き、小さく手を立ててゴメンのポーズを見せる杏を萌は呆気に取られて見送った。鳳と二人で取り残される。
「…ちょっと、どうするの?完全に誤解されたよ?」
「そうかもね…でもどうしようもないし、ホントにデートしようか」
「なっ…な…」