第13章 返事
不二先輩、いない…でも多分、先輩は一人でも練習に行ってる気がする。
走りながらそう考えてスポーツクラブへ急ぐ萌。息が切れて汗がにじんできた頃、クラブの門が見えてきた。ちょうど入り口へ進んで行く不二を見つけて萌はその背に呼び掛けた。
「不二先輩!」
「…夢野、どうしたの?」
肩で息をする萌を見て、驚いた様子で不二が門まで戻って来た。呼吸を少し落ち着けてから、途切れながらも懸命に言葉を探す。
「あたしも…先輩に謝ってなかったから……ごめんなさい。それを…伝えたくて」
萌が頭を下げるのをしばらく黙って見つめていた不二だったが、静かに目を伏せて息をひとつついた。
「…だめだよ、夢野。また抱きしめたくなっちゃった」
まだ少し弾んだ呼吸のまま、萌は驚いて彼をぽかんと見つめ返した。
「前に言った時と同じ、僕の気持ちは変わってないよ」
どこか嬉しそうに優しい笑みをこちらへ向けてくる不二。
「コートの中だけでなく、ミクスドのペアとしてだけでなく…いつも一緒にいたいんだ。もし夢野が…いいと言ってくれるなら」
胸の鼓動がどんどん大きくなっていくなか、萌の頭の片隅で先程の菊丸の自分を呼ぶ声が響いてきていた。
勇気を…少しでいいから勇気を出すんだ…!
「あたしは……不二先輩に応えることは出来ません」
真っ直ぐに不二を見据え、思い切って告げる。彼はさほど表情を変えずに続けた。
「…好きな人がいるの?」
「…はい」
小さく、だがしっかりと返事をすると、少し間をおいて不二がフッと笑った。
「そうか……フラれちゃったな」
「ごめんなさい」
再び頭を下げると彼はすぐにそれを制した。
「謝ることなんてないよ。キミは何も悪くない」