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sweet and sour time

第13章 返事


 言葉に出され、あの時の感覚が甦ってくる気がして頬が染まってしまう。

「まだ謝ってなかったからね、それだけ言っておきたくて」

 胸がつまるような言い様のない気持ちが押し寄せ、黙ったままの萌の背後から、誰かが近付いてくる声が聞こえてきた。不二は人がこちらへやって来るのを察すると、向きを変えて歩き出した。

「それじゃ、お疲れさま」
「…先輩!」

 数歩進んだ先で不二は萌の呼び掛けに振り返る。

「あたし…イヤだったとかじゃないです!」

 不二が嫌だった訳ではない。気持ちを、態度をはっきりさせない自分が嫌だったのだ。
 少し驚いた表情を見せた後、彼は優しく微笑んで行ってしまう。

「よお…何だあ?今のセリフ」
「不二…行っちゃったけどいいの?」

 後ろから桃城と菊丸の問い掛ける声がした。

「イヤじゃなかった、って…まさかお前、そんな若いみそらで不二先輩と…!」
「…もうやだ…っ、桃城先輩のばかっ」

 勝手に妄想する桃城につい非難の言葉が出てしまう。

「桃ってスケベだからさあ、ごめんね夢野。ったく、お前じゃないんだから不二がそんなカンタンに女のコ襲うかよお」
「えーっ、何すかそれ、人聞き悪いっスよお~」

 じゃれ合う彼らの話もうわの空に、萌は考え事にふけっていた。
 今まで近くで共に頑張り、時には助けてくれた大切な仲間達のこと。ペアを組んだため一番近くにいた不二のこと。大切だからこそ、たとえ相手の気持ちに背くことでもちゃんと伝えなければならない事がある。
 …このままじゃ何か違う。自分なりのけじめをつけるんだ。
 そう思い至り、二人に背を向けて足を踏み出す。

「夢野…どこ行くの?」

 思いがけず菊丸に行き先を問われてびくっとしたが、構わずもう姿の見えない不二を追いかけようと走り出す。

「夢野!」

 すぐ後ろで再び菊丸の大きな声が響いた。まるで行くな、と言っているような切羽詰まった声だ。萌は意外な彼の呼び掛けについ足を止めてしまうが、振り返らないようにして今度こそ走り始めた。











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