第12章 ファミレス
午後の授業が終わった萌はコートへ向かっていた。昨日部活を無断欠席しているため足取りは重かった。それに、逃げたままの状態で不二と会うのも気まずかった。
誰とも目を合わせないようにして部室へ入り準備する。そっとコートを覗くと、いきなり大声で菊丸と桃城に呼ばれてしまう。
「あーっ、夢野だ!」
「おっ、お前ー昨日はどうしたんだあ?」
心配そうな表情の菊丸に胸が痛くなる。何も言えずに逃げるようにしてコートの端に行き体操を始めようとしたところへ、不二がつかつかとやって来た。
「夢野」
いつもと雰囲気の違う彼に鋭い視線を向けられ、その威圧感に萌は息を飲む。
「…なんであんな時間に一人で帰ったりしたんだ!」
…え?
萌はうまく状況が呑み込めず、ただ不二の言葉を聞くしかなかった。
「キミのあとを追ったけど見失って…どれだけ心配したと思ってるんだ!」
その怒声に周りにいた皆がどよめくのが聞こえた。
「おまけに昨日の部活には来ないから何かあったんじゃないかと思って…本気で心配した。…何もなくて良かった」
初めて見る不二の怒鳴る姿。本気で怒ってくれているのだ、萌の身を案じて。いつもより素っ気ない態度に見えるが、その言葉や表情に彼の優しさを感じた。去っていく後ろ姿に感謝する。
不二先輩はどこまでも優しい…本当にごめんなさい。ありがとうございます。
部活が終わり後片付けを済ませて急いで部室に戻る萌。不二にきちんと謝ろうとしたのだ。
「不二?もう帰ったよ」
周りに尋ねるとそう返され、がくりと肩を落とす。
「…ね、夢野も一緒においでよおいでよ」
謝りそびれてしょげた萌を元気づけようと、菊丸が背中をぽんと押してきた。
「どこに行くんですか?」
「もっちろん!ファ・ミ・レ・スぅ~!」
外へ出ると乾と自転車に乗った桃城が待っていた。
「おう、桃。チャリ貸せ~~」
菊丸と二人乗りすることになる萌。彼はゆるゆると蛇行したり来た道を戻ったりと忙しく、徒歩の乾、桃城と早さはさほど変わらなかった。
「着いたぞおー、よい子のファミレス~」