第11章 認識
すぐ近くで自分を呼ぶ不二の声がする。小声だがとても熱っぽい。さらに腕に力を込められしっかりと抱きすくめられた。
「せんぱ、い…」
やっとそう呟いてもがき、不二が手を緩めた隙に彼の腕から逃れて走り出す。
「夢野!!」
後ろから不二の呼ぶ声がしたが、構わず萌はやみくもに走り続けた。
どこをどう進んで来たのか定かではないが、気がつくと自分の家の前だった。ほとんど休まずに帰ってきたらしい。息が乱れて苦しかった。
「…先ぱい……」
今頃になって不二の気持ちが伝わってくるような気がした。好きだ、と言った彼の気持ちが現実的に理解出来てきた。
逃げてきてしまった自分を恥じる。そして不二の好意を利用して彼に甘えた自分を責める。名前を呼ぶ彼の声を思い出すと切なくなった。
翌日萌は朝練と部活を無断で休んだ。
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