第11章 認識
不二の綺麗な瞳がさっきより近付いている気がする。しかし全く目を逸らせずにいると、フッと彼が微笑んでベンチから立ち上がった。
「そろそろ帰ろうか」
萌もうなづいて立ち上がる。頭の中はまだぼーっとしていた。
「都大会も一緒に組んで出られるといいね」
ふいに投げ掛けられた彼のその言葉が引っかかり、歩き出した足を思わず止めた。
「…なんでですか?ペア、別れちゃうの?」
「もしかしたら、ね。それは先生と手塚が決めることだけど」
この事があったから不二は今日待っていたのだろうか?思案して足を止めたままの萌に気付き、先を歩いていた不二が振り返った。
「夢野?」
不二先輩とペア別れたら誰と組むんだろう……菊丸先輩は?瑠羽先輩が出られなかったら、菊丸先輩は誰と組むんだろう…
もしかしたら、菊丸と再びペアになれるかもしれない。そう思うと胸の中が熱くなって手が勝手に震え出す。そんな萌の様子を見ていた不二が小さく笑って目を伏せ呟いた。
「…そんなに喜ばれると傷付くな」
「え?」
聞き返した次の瞬間、気付くと不二の両腕に抱きしめられていた。あまりにも突然の展開に萌は驚きで声も出せない。小柄だと思っていた不二もこうして抱きしめられると包容力があってあたたかさを感じる。萌の心臓は破裂しそうに高鳴り、全身が赤くなるような恥ずかしさを覚えた。
「夢野」