第11章 認識
にっこりして本を閉じた不二と共に部室をあとにする。
通りへ出たまま、不二はほぼ無言でどこへ行くともなく歩く。どうやらスポーツクラブへ行く気はないようだ。萌が疲れているだろうと気を遣っているのか?それにしても帰るとも言わない。
通り沿いの店を眺めながら何て尋ねようか考えていると、ようやく不二が口をひらいた。
「少し公園に寄ろうか」
近くの公園でジュースを買いベンチに座る。会話がないと少し緊張してしまう萌。
「…夢野、なんで緊張してるの?」
「え?いえ、あの…何となく…」
人の心の中を見透かすような深い目をして不二は続けた。
「今日部活大変だったね。瑠羽が来るまで大変なままかもしれないけど、都大会も頑張ろう」
「はい、もちろんです。…でも瑠羽先輩大丈夫かな」
「今は学校も休んでるって聞いたよ。そのうち様子見に行こうかと思ってるんだけど」
…ん?それってお見舞いってことかな?
萌の疑問を察して不二は説明を加えた。
「瑠羽とは小学校からずっと一緒だったんだ。ご両親も知ってるし部活も一緒なんて、何だか腐れ縁みたいだ」
「瑠羽先輩って素敵ですよね。テニス上手いしキレイだし、あたしとか後輩にもすっごく優しいんです。あたし…瑠羽先輩好き」
「瑠羽が聞いたら喜ぶと思うよ」
こちらの話に耳を傾けていた不二は柔らかく笑って言った。萌もつられて微笑むと、ひと呼吸おいて彼は再び口をひらいた。
「僕も夢野にそんなふうに言われてみたいな」
「えっ…!」
…また話がそっちに向いちゃった。
冗談めかしているとはいえ、あの落ち着いた甘い口調で深い瞳を向けられれば、萌でなくてもクラクラしてしまうだろう。
ふと萌は自分が見つめられっぱなしなことに気付く。いつの間にか不二の顔から笑みが消えていて、その瞳はまっすぐ萌をとらえていた。
…不二先輩、あたしの言葉を待ってる?なんで黙ったままなの?