第11章 認識
瑠羽が部活を休んでもう三日が経った。もうすぐ都大会ということもあって部内でも心配する声が多く出ていた。
瑠羽とペアを組んでいる菊丸はどうなるのだろう。気掛かりで見つめていると、ふいにこちらを向いた彼と目が合ってしまった。
「今日も気合い入れていこうにゃ」
ニコッと笑ってくれる菊丸に逆にこっちが励まされる。
…菊丸先輩のほうが不安なはずなのに。
彼に言われた通り一生懸命に練習に取り組んだ。
「お前さあ、俺が言うのもなんだけど、ダブルス上手くなったよな」
部活を終えて部室へ引き上げるなか、桃城が萌を誉めてきた。
「ほんとですか?」
「ああ、ホントだぜ。だあーれのお陰なのかなあー?」
ニヤッとした桃城が不二のことを言っているとすぐに気づいてむくれる萌。
「もうっ、桃城先ぱいってそればっかり!」
「ハハ、じょーだんよ、怒んなって」
桃城と仲良く話していると、瑠羽の休みの件で連絡に来ていた女テニの部長が萌に近寄ってきた。
「夢野、たまにはウチらを無視してないで女子のコートも整備しろよ」
「…はい、これからやっていきます」
彼女はもっと何か言いたそうだったが、それ以上は黙ったまま女子の部室へ戻って行った。
「目のカタキにされてんなあ」
その様子を見ていた桃城が苦笑する。
「これから一人でやんのかよ…俺も手伝おうか?」
「いえ、大丈夫です。あたしがやらなきゃ…あたしだって女テニ部員なんだし」
部長は嫌味のつもりだったのだろうが、萌にはそれは正論に聞こえていた。
そういえば今日久々に自主練習に行く予定だったのに…遅くなっちゃったし、不二先輩帰っちゃったよね。
やっとコート全面を終わらせて男子の部室に戻る萌。なかなか今日は疲れてしまっていた。ゆっくりドアを開けて、驚きで一瞬固まる。
「おかえり。コート整備お疲れさま」
不二が一人で部室に残っていた。
「…どうして……もしかして待っててくれたんですか?」
「本読んでたから大丈夫だよ」