第10章 氷帝学園
「あっはあ、それ面白そうじゃん侑士!」
ぴょんぴょん跳ねる向日を横目に杏は文句を言い放つ。
「そんなの…勝てるワケないじゃない!」
「せやから1ポイントでも俺達から奪ったら勝ちにしたる。…どうや?」
余裕の笑みで忍足は大きなハンデを与えてくる。少しでも可能性があるのなら、萌の答えは決まっていた。
…たった1ポイントで不二先輩に迷惑がかからないなら、やるしかない!
「杏ちゃん」
萌は忍足を睨みながら杏に静かに呼び掛けた。
「ダブルス、やってくれる?」
「萌…多分無理よ、たとえ1ポイントだってこの人達には…」
「お、このコ…やる気みたいやな」
「そーこなくっちゃな!」
かなり乗り気な忍足ペアを見やりながら鳳がこらえきれない様子で詰め寄る。
「先輩、いくらハンデつけたとはいえ、女の子相手に可哀想っスよ」
「たかがゲームだ。鳳、お前は黙ってろ」
跡部の鶴の一声の前に誰も何も言えなくなる。こうして訳の分からない流れで試合をすることになる萌達。
1ポイント取ればいいんだもん…やってやる!
しかしどこに打ってもことごとく簡単に打ち返されてしまう。おまけに前衛の向日の動きがまるで菊丸のようにアクロバティックで、萌達のペースを乱してくる。疲れるだけで試合が進んでいった。
「どーしたあ?軽く打ってやってんだぜ」
「…萌…この人達正レギュラーよ、最初っから無理な話持ちかけられてるのよ」
「正レギュラー…」
冷静になれないほど萌は頭にきていたし、疲れていた。
「…ってなに?」
二人の会話を聞いて向日が大爆笑する。
「あっははは!お前俺たちのこと知らねーの?」
「ま、俺ら都大会までのしょっぱい試合には出えへんからな、知らんやろ」
なんなのこの人達…くやしい……
悔しさがこみ上げてきてポロッと涙をこぼす萌。それを見てぎょっとした向日が少し慌てて忍足に告げた。