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sweet and sour time

第8章 手塚の冗談


 ホームルームを終えて清掃の時間がやってきていた。萌達の班は会議室の担当だ。すぐ部活に行けるようにばっちりテニスバッグを持ってきていた。
 なんでコート準備の当番の時に限って、玄関から遠い所の掃除なの~
 心の中で文句を言いつつ掃除を終え、テニスバッグを掴み急いで萌は部活へ向かう。すると戸口のところで思いきり誰かとぶつかってしまった。

「わっ」

 誰もいないと思って駆け込んだ萌としては、いきなり制服の胸元が視界にとび込んできて面食らうばかり。無防備に相手の胸へ倒れ込む。だがその相手はぐらつく気配もなく、萌の肩を軽く自分から離した。

「ちゃんと前を見て歩くことだ。何をそんなに急いでいる?」

 聞き覚えのある声に顔を上げると、その声の主は手塚だった。

「てっ、手塚ぶちょ…!す、すみません、コート準備の当番で…」

 慌てふためいてしどろもどろの萌から視線を外して手塚は会議室内を見渡した。

「もうここの掃除は終わったのか?これからここで生徒会のミーティングをするんだが」
「あ、はい。…部長、すみませんでした!」

 萌が頭を下げると、室内に入った手塚は振り向いて言った。

「お前はテニスコートの外では反射神経がにぶるようだな。個人練習のメニューを倍に増やそう」
「は…いっ…?」

 萌の固まった反応を見て、彼は表情を変えずに付け足す。

「…冗談だ」

 うっ、冗談に聞こえないんですけどお~っ
 会議室を出ると同じ掃除の班の女子が萌にこそっと話しかけてくる。

「ねーねー、手塚先ぱいってクールで怖い人なんでしょ?冗談とか言いそうにないのにねーっ」

 意外な一面を見たとばかりに彼女は嬉々として瞳を輝かせた。

「でも全然笑わないであんな風に言われても余計コワイよね」
「きゃはは、そーかもね。でもカッコよかったぁー!あのシブさが素敵…!」
「うそぉ、怒ると怖いんだよー」
「怒られたい…」

 思わぬ所で手塚を見られてうっとりしまくる友人と別れて萌はコートへ急いだ。彼の胸にとび込んでしまったことを思い出して恥ずかしくなる。
 ごめんなさい、部長…テニスで帳消しにするくらい頑張りますので、練習量倍は勘弁してください…



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