第7章 前ぶれ
学校のことやくだらない話でしばし時間を忘れる。この二人の話は本当に面白くて萌を終始笑わせた。
「夢野んちもこっちなんだ?そっか、じゃ俺が送ってやるよん」
店を出て帰り道を歩く萌に菊丸が申し出る。桃城と途中で別れ、二人になりやや焦る萌。
さっきイシキしないようにって誓ったばかりなのに…
「あーよかった」
突然菊丸が息をついて一言漏らした。
「え…何がですか?」
「ん、さっきさ、店でお前俺たちの話にすげーウケてくれたじゃん?お前、いっぱい笑ってたからさあ」
少し先を歩いていた菊丸は振り返ってとびきり明るい笑顔を見せた。
「ちょっとは疲れも吹っ飛んだろ~~?」
瞬間、疲れていたことなどどうでもよくなる程の明るく優しい笑顔の彼に、萌は目を奪われる。
…もしかして、元気づけようとしてくれた?
見つめられ、菊丸は照れたように頭を掻く仕草をした。
「にゃはは…なーんちって」
人の優しさに触れてあたたかさを実感した瞬間だった。萌は心の中で菊丸と桃城に力いっぱい感謝する。
「ま、無理すんなよお。何かあればみーんな嫌な顔しないで助けてくれるから」
「あたし…頑張ります」
泣きそうになるのをこらえてやっと言うと、菊丸はそんな萌の頭をポンと撫でて続けた。
「夢野って、ひと言も泣き言言わないからさ…地区大会もいい成績で無事に終えたし…都大会もがんばろーな!俺も、他のみんなも、夢野と一緒に頑張っていきたいっていう気持ちなんだ」
「嬉しいです…すごく嬉しい」
みんなが見守ってくれてる。それだけでもっともっと頑張っていける。疲れた時だって、こうして声を掛けてくれる仲間がいれば…
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