第7章 前ぶれ
地区予選が終わって翌日の朝練、皆がもはや次の目標の都大会に照準を合わせていることに萌は感心した。さすが青学、部員の意識が違うようであった。
朝練を終え、授業も流れるままに受ける萌。昼食後の午後の授業でにわかに眠くなってくる。
やっぱり、さすがに疲れたな…
眠気を振り払おうと窓の外に目を向けると、どこかのクラスの男子が体育の授業をおこなっている。
…ん、もしかして3年生?あれって菊丸先輩じゃ…
何ヵ所かに分かれて陸上競技をおこなっている男子達のなかに、ひときわ動きが素早くて派手な男子を見つけて萌は微笑んだ。
そういえば以前菊丸は、ダブルスの試合で負けた時にはコンテナの上で反省会をやるんだ、と言っていた。地区予選前日の部活の練習試合で菊丸ペアは萌達に負けている。
菊丸先輩…前にあたしを連れて行ったように、あの時は瑠羽先輩を連れて行ったんだろうか……同じように手を貸して、コンテナの上で二人だけで過ごしたんだろうか。
そんな風に思った自分に萌は驚いていた。菊丸と組んだ時のコンビネーションはボロボロだったのに。菊丸の動きが読めなくて、ついていけなくて、やりづらいとさえ思ったのに。
その日の授業が終わり部活に出る萌。練習のあいだも何故か菊丸が気になってつい目が追いかけてしまう。
「夢野、調子どう?」
ぼーっとしていた萌に不二が話し掛けてきた。
「疲れてるんじゃない?今日のメニューは体調の調整がメインだけど、大会明けじゃさすがにキツイだろう?」
「んー…全然、だいじょうぶですよ」
ぼんやりしながらも普段通りに努める萌の物言いに、不二はプッと吹き出した。
「強がりだなあ夢野って。…でもそういうの、僕好きだけどね」
笑いながら去ってしまう不二。萌はいっぺんに目が覚めた気分になった。
な…何?今の…どういうこと?