第6章 地区予選
「ひっ……て、手塚ぶちょ…」
「何か言ったか?」
恐怖で固まる萌を見据えて手塚が低く尋ねた。
「いえ、何も…何でもないです!」
「あ、手塚くーん。夢野さんが『部長のグラウンド20周、好きです』だって」
必死にはぐらかす萌を尻目に瑠羽が手塚に呼び掛ける。
「…そうか?好評なら夢野の分は倍に増やそうか?40周でどうだ」
「よ…よんじゅう!?やです~~」
飄々と言ってのける手塚とそれを楽しむ瑠羽にはさまれて、萌は半泣き状態になった。そこへロシアンルーレットが一段落したのか菊丸が様子を見に来る。
「なに泣いてんのお、夢野。…えっ、手塚に泣かされちった?」
「夢野、こっちにちらし寿司あるよ。食べない?」
「そーっスよ瑠羽先パイ、そんな端にいないで、二人ともテニス部の華なんスから~」
不二や桃城からも声を掛けられ、萌は瑠羽のあとを追った。奥のテーブル席にいた不二はお皿にお寿司を取り分けてくれていた。にこにこして萌に差し出す。
「おわー、ちらし寿司いーなあいーなあ」
不二が取り分けているのを発見して菊丸も覗きに来る。が、ぴしゃりと彼を制して瑠羽にお皿を渡す不二。
「だめ。これ瑠羽の分」
「う~~瑠羽ちゃんのかあ。いーなあ味見したいなあ」
菊丸が今度は自分に催促してきているのに気付き、萌はいたずら心が湧き彼に向き直って言った。
「…じゃ、あーんしてください」
「へっ!?」
「いらないんなら食べちゃおっと」
「あ゛ー、ああ~~ん」
照れながらも元気に口をあけた菊丸に、萌は山盛りのちらし寿司を運んであげた。
「…んんっ……おーいじぃ~~!」
だらしなく歓喜の声を上げる菊丸。それをからかう桃城やみんなと共に楽しい時間を分かち合った。
真剣に戦った地区大会、底なしにはしゃいだ祝勝会…萌は青学テニス部に惹かれていく自分を感じずにはいられなかった。
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