第6章 地区予選
「大丈夫。僕がついてる」
不二のいつもの優しい微笑みと力強い言葉。それに応えるように萌は精一杯動き、いつの間にか自分の足が軽やかになるのを感じた。対戦相手の神尾がスピードに強かったことが逆に萌を走らせたようだった。絶妙のタイミングで繰り出される不二の返球技が青学のペースを崩さない役割を果たし、終わってみれば結果6-4で萌達の勝利となる。
「…勝てた」
「まずは地区大会制覇、だね」
にっこりと微笑む不二と握手を交わす萌。不二の手があたたかくてその温度が萌の腕に流れて伝わってくるようだった。こうしてミクスドの優勝は青学となり、男子はダブル制覇を成し遂げた。
その後河村の実家であるかわむらずしに男子レギュラーメンバーとミクスドメンバーが集められ、地区大会優勝の祝勝会が行われた。大石の掛け声で皆お茶で乾杯をし、お寿司をご馳走になる。
「すごいすごい~っ、こんな沢山おすし頂けるなんて」
「毎回お世話になっちゃってるのよ、河村君のうちに」
男子部員のもの凄い食べっぷりに圧倒されて、端っこに瑠羽と並んで座っていた萌は感動の声を上げた。
カウンター席のほうでは手塚と大石、そして乾が河村の父と談笑しながら落ち着いた雰囲気を醸し出していたが、打って変わってテーブル席のほうはえらい騒ぎになっていた。寿司の取り合いに始まり、不二特注のワサビ寿司をネタにロシアンルーレットで盛り上がり出す始末だ。
「ぶっっ」
「やりぃ~越前!それ当たりだろ当たり!」
そのすさまじい光景を一瞥して瑠羽はため息をつく。
「も~はしゃぎ過ぎ。お子様なんだから」
「でも、楽しくっていいですよね」
「みんないつもいつも練習だから…今日くらいは、って手塚君も思ってるみたい」
「ここで『グラウンド20周だ!』って怒られたらやですもん」
「ふふっ、それ手塚君に聞こえたらそれこそ20周かもよー」
そんな会話をしていると、ふと隣で笑う瑠羽の先にこちらを振り返って見ている手塚に気付いてしまう萌。