第3章 不二とのダブルス
「ん…へーき」
「無理すんなよお、俺、フォローするから」
菊丸が瑠羽の顔を覗き込んでいたわるように接している様子が視界に入り、萌は無意識に胸を押さえた。
…なんだろ……何だか胸がざわざわする…なんで?
二人のことを見ていられず目を逸らす。そこへポンと肩に手を乗せられ、傍に来た不二に気付いた。
「どうしたの?ボーっとしてたよ」
「あ…」
これから試合が始まるのにしっかりしなくては。萌は自分に言い聞かせ、努めて平静を装って告げた。
「先輩…勝ちましょう、絶対」
「…うん、それは勿論。だけど、まあリラックスしていこう」
不二と息を合わせることを第一に考えて頑張ってみるが、経験の差なのか惜しくも萌達は敗れてしまう。
「はあ…はあ…」
やっぱり先輩達すごい…あれがダブルスの動き…
部活が終わり皆帰り支度を始める。しかし萌は抑えきれない悔しさを胸に一人壁打ちを続けていた。
「…不二先パイ」
部室の戸口からそんな萌の様子を見ていたリョーマが不二に呼び掛ける。
「いいんすか?ほっといて…アレ」
リョーマの指したほうを見て不二はふうっと息をつく。しかしその表情は心なしか嬉しそうに微笑んでいた。
「夢野」
一人がむしゃらに練習する萌に近付き、そっと声を掛ける不二。
「…そんなに力んで打っても疲れるだけだよ」
萌はラケットを振るのをやめ、俯いた。
「…先輩、あたし、悔しいんです」
「…うん」
「もっと上手くなりたい」
「うん」
「…負けっぱなしは嫌なんです!」
萌が力を込めて言うと、不二は萌の正面にすたすたとやって来て唐突に両腕を伸ばし肩にぐっと乗せてきた。
「キミの気持ちはとてもよく分かる…そういう気持ちを強く持ってるだけでキミには他のみんなより上手くなる可能性が生まれる……大丈夫、焦らないで。肩に力が入ってる」