第120章 記憶の欠片<参>
その後、小鉄を下ろした二人はしばしの間会話をした。
「へぇ、小鉄君十歳なんだ」
小鉄の年齢を聞いた炭治郎は、少し懐かしむように目を伏せた。
「炭治郎?」
「え、ああ。ごめん。俺の弟もそれくらいだったなって思って・・・」
そういう炭治郎の"目"には、懐かしさと少しの寂しさが宿っているように見えた。
それを見ていられなくなった汐は、話題を変えようと口を開いた時だった。
三人の横を、黒い髪を靡かせながら無一郎が通り過ぎていった。
「えっ!?」
思わぬことに、汐は目を見開き、炭治郎と小鉄は飛び上がった。
「終わったんですか!?」
「終わった・・・、いい修行になったよ」
二人がそういうと、無一郎は振り返って淡々と答えた。
「誰だっけ・・・。あ、そうか」
無一郎は無機質な目でそういうと、片手に持っていたものを三人に見せながら言った。
「俺の刀折れちゃったから、この刀貰っていくね」
無一郎が言い終わらないうちに、小鉄は今無一郎が来た方向に慌てて走り去っていった。
「小鉄!」
「小鉄君!!」
汐と炭治郎の声が重なる。
無一郎はそんな小鉄に構うことなく、壊れてしまったであろう自分の刀を炭治郎に投げつけた。
「それ処分しといて」
あまりにもあまりな行為に、汐は鋭い目で睨みつけた。
だが無一郎はそれに一切臆することなく、そのまま立ち去っていった。
無一郎からは悪意の匂いが一切せず、わざとやっているわけではないことは明らかだった。
しかしそれでも、汐と炭治郎は全くと言っていい程納得できなかった。
「ねえ、炭治郎。小鉄を追いかけたほうがいいんじゃない?人形の腕取れてたみたいだし・・・」
「そうだな。行こう」
二人はすぐさま小鉄が走り去っていた方向に足を速めた。