第120章 記憶の欠片<参>
「うちの里ではよく言われることです」
――受け継がれていくのは姿形だけではない。生き物は記憶も遺伝する
「初めて刀を作るとき、同じ場面を見た記憶があったり、経験してないはずの出来事に覚えがあったり、そういうものを記憶の遺伝と呼びます」
「つまり炭治郎の見た夢って言うのは、炭治郎の先祖か誰かの記憶ってこと?」
汐が言うと、少年は大きくうなずき、その背後では無一郎の鴉が「非現実的!」とけたたましく鳴いた。
(あれ?じゃああたしの記憶は誰の記憶なんだろう。あたしの先祖?でも、おやっさんとあたしは血がつながってないし、そもそもあたしは捨て子だし・・・)
そう言って首をひねる汐の傍で、炭治郎は少年の優しさに涙した。
「俺、炭治郎。こっちの彼女は汐。君の名前は?」
「俺は小鉄です」
少年、小鉄はそういうと、喚く無一郎の鴉を睨みつけながら言った。
「意地の悪い雌鴉なんて、相手にしなくていいですよ」
「ブッ!!」
小鉄の身も蓋もない言葉に鴉は顔を歪ませ、汐は我慢できずに吹き出した。
その時だった。
ひときわ大きな金属音が響き渡り、三人は反射的に顔を動かした。
そこには、大きく刀を振り下ろす無一郎と、鎧が砕けた人形の姿があった。
それを見た小鉄は、くるりと背を向け走り去ってしまった。
「小鉄君!!」
「炭治郎、追いかけるわよ!」
二人はすぐさま、小鉄の後を追いかけた。