第120章 記憶の欠片<参>
「へっ!?」
汐の思わぬ行動に、炭治郎の顔は瞬時に真っ赤に染まる。そのまま汐の手は頬を滑り、炭治郎の両耳を優しく包み込んだ。
肩を震わせる炭治郎に合わせて、耳飾りが揺れる。
だが、目の前の少女の目は虚ろで、炭治郎を映していなかった。
「ごめんなさい・・・、ごめんなさい・・・、よりいち・・・さま・・・」
「っ!?」
汐の口から出てきた言葉は、普段の汐が口にしないようなものだった。
否、それ以前に汐がこのように炭治郎に触れること自体、ありえないことだった。
(何だ、これ・・・。汐から深い悲しみと後悔の匂いがする・・・。いや、今目の前にいるのは本当に汐なのか・・・?)
何故だかはわからないが、この瞬間炭治郎は汐がどこかへ行ってしまうようなそんな気がした。
「しっかりしろ、汐!!」
炭治郎は汐の両手を掴むと、鋭い声で言った。
「目を覚ませ!お前は【大海原汐】だろう!!」
炭治郎の声が空気を斬り裂き汐の耳に届けば、汐ははっとした表情で身体を震わせた。
「あ、あれ?あたし、何を・・・?」
汐は何度か瞬きをした後、炭治郎の顔をまじまじと見つめた。
「炭治郎・・・?あたし・・・」
それと同時に汐の匂いが元に戻り、炭治郎はほっと胸をなでおろした。
「あ、そうだ!あの人形!あれを見てたらなんか変な感じになって・・・」
「汐もか!?」
炭治郎は汐も似たような感覚を感じていたことに驚き、声を上げた。
「そう。あれを見てたら、なんかすごく悲しい気持ちになって・・・、でも変よね。あれってかなり昔に作られたものじゃないの?」
「戦国時代だって言ってたよ。彼の先祖がある剣士を元にして作ったって」
炭治郎は先ほどの少年の言っていたことを、汐に簡潔に説明した。